日本の保育園では、外国で生まれた教育思想を取り入れているという園も少なくありません。自分で自分を育てる力を大切にする「モンテッソーリ教育」という教育思想を聞いたことがある人も多いでしょう。では「シュタイナー教育」はご存知でしょうか?
シュタイナー教育は、自然や芸術からの学びを重視している教育思想です。そのほかにも、さまざまな特徴があります。今回は、シュタイナー教育の方針や子どもに与える影響を詳しく解説します。
1 シュタイナー教育とは?
シュタイナー教育とは、オーストラリア出身の思想家、ルドルフ・シュタイナーによって提唱された教育思想です。シュタイナーの思想を実現するため、ドイツのヴァルドルフに学校を設立したことから「ヴァルドルフ教育学」とも呼ばれています。
シュタイナー教育は、体・心・頭のバランスが整うような教育思想を基本としています。つまり「心と体を含めた全人教育を施し、自由な意志で動いていける人間を育てること」を、ねらいとしているのです。
2 シュタイナー教育の方針
シュタイナー教育では、体・心・頭のバランスを整えるために、子ども達の成長過程や性格を分類し、以下のような個性や発達段階に合わせた教育方針を大切にしています。
2-1 成長を構成する4つの形を順に育む
シュタイナー教育では「物質体」「生命体」「感情体」「自我」の4つの形が成長を構成すると考えられています。人が成長していくうえで、4つの構成体がバランスよく成長することが求められるのです。それぞれの形には、以下のような特徴が挙げられます。
物質体 | 0歳で形成 | 命の誕生で生まれる体そのものを指す |
---|---|---|
生命体 | 7歳前後で形成 | 引力に逆らって上へ伸びようとする力や繁殖力 |
感情体 | 14歳前後で形成 | 快・不快などの喜怒哀楽を指す |
自我 | 21歳前後で形成 | 自己を理解し表現する力 |
以上のような構成を、適切な時期に育むことが重要だと考えられています。
2-2 4つの気質に分けて接し方を変える
シュタイナー教育では、成長を構成する4つの形を軸に、それぞれの気質を「生まれながら持っている個性と親からの遺伝が混合されている」と考えています。そして、主となる気質を4つに分類し、以下のような特徴に合わせた接し方を提唱しています。
気質1:胆汁質
主な性格の特徴
- 自己主張や意思が強く、ときに周囲と衝突する
- 自分の思いが通らないと癇癪をおこすことがある
- 決断力や行動力がありリーダー気質を持っている
- 他者に認められることで力を発揮する
気質に合わせた接し方
子どもの姿をしっかり観察し、褒めて伸ばす姿勢を大切にします。また、少しハードルの高い課題を与えることで、有り余るエネルギーを発散させましょう。「自分が一番だ」と、横柄な態度ばかりにならないよう、その子の尊敬する人を身近に感じさせ自制心を育てることも必要です。
気質2:憂鬱質
主な性格の特徴
- 基本的にネガティブな考え方を持っている
- 敏感で傷つきやすく、ひとりで過ごすことが多い
- 自身への関心が強く、探求心がある
- 繊細で想像力が豊かである
気質に合わせた接し方
ネガティブで内気な気質であることから「同じように悩んでいる人」や「辛い経験をした人」と接する機会が必要です。自分以外の人が悩み苦しむ姿を見て共感したり、手助けしたいと思う気持ちを育てましょう。また、探求心や想像力はクリエイティブな素質として十分に伸ばす働きかけを心掛けます。
気質3:粘液質
主な性格の特徴
- マイペースでおっとりしている
- 言われたことを丁寧にこなすが時間がかかる
- 周囲の人から注目されることを嫌がる
- やる気が出たときの、集中力や持久力が高い
気質に合わせた接し方
周囲から注目されたり、必要以上に構われたりすることを避けるタイプのため、手や口を出しすぎないよう注意します。また、支援するときは本人のペースに合わせて穏やかに働きかけましょう。
気質4:多血質
主な性格の特徴
- 楽観的でポジティブな思考を持っている
- 好奇心旺盛で陽気な性格のため親しまれやすい
- 喜怒哀楽に敏感で人に優しくできる
- 落ち着きがなく飽きっぽい
気質に合わせた接し方
好奇心旺盛な気質を大切にし、さまざまな分野にチャレンジできる環境構成をおこないましょう。物事への挑戦と合わせて、集中する時間を長く取れるような工夫も必要です。興味関心のある課題を与えることで、じっくり取り組む姿勢を培えます。
2‐3 発達を7年に分けて教育する
シュタイナー教育では、成長の構成や気質の分類のほかにも「発達は7年ごとに節目を迎える」という、七年期説があると考えられています。0歳~21歳までの成長過程を以下のように3つに分け、それぞれに合った課題を与えます。
第1 七年期 | 0~7歳 | ・しっかりとした体を作り、意思や行動力を促す ・吸収力が高いため、厳選した良いもので環境を構成する |
---|---|---|
第2 七年期 | 7~14歳 | ・心や感情を成長させる
・美しいものに触れ、感情を揺さぶる体験を重視する |
第3 七年期 | 14~21歳 | ・思考力や判断力といった頭を育てる
・自我を大切にしながら、世界の認識を深める |
シュタイナー教育では、以上のように発達段階を7年ごとに分類し、体・心・頭を順にバランスよく育てていくことが大切だと唱えられています。バランスよく整えられた感覚を獲得した人は「自由を獲得した」とされ、自分で考え行動できる自由な人生を歩むことができるのです。つまり、シュタイナー教育では「自由な自己決定ができる人」を目指しているといえるでしょう。
3 シュタイナー教育の特徴
シュタイナー教育は、成長過程やそれぞれが持つ気質を分類し、個々に合った教育方針でバランスの良い成長を促します。そのほかにも、子ども達に対する教育のなかにはさまざまな特徴があります。ここからは、シュタイナー教育の特徴について解説します。
3-1 12年間におよぶ一貫教育
シュタイナー教育では、導入している学校の方針にもよりますが「長期的な一貫教育」を基本としています。小学校入学から8年間や、高校3年生までの12年間、または幼稚園から中学3年生までの12年間など、それぞれ一貫性を持って教育しています。
また、同じ敷地内に校舎があることから、小学校や中学校といった区別をつけていません。その間、担任やクラスが変更することはなく、個別対応の徹底がおこなわれています。
3-2 1教科に集中するエポック授業
エポック授業とは、決められた科目だけに集中する時間のことを指します。シュタイナー教育では、1日の間にいくつもの科目を勉強するのではなく、1科目に絞り数週間連続で勉強するといった特殊な授業スタイルを導入しています。
そのため、国語のみを学習している期間は、算数や社会といった他の科目は一切おこないません。そうすることで、深い理解を得ることが可能となります。また、高学年になるまで教科書を使わず、自らが授業中に記録したノートを教科書として作り上げていくといった特徴もあります。
3‐3 オイリュトミーやフォルメンが基調
シュタイナー教育では、芸術的観点を重要視しています。そのため、オイリュトミーやフォルメンといった特徴的な授業がおこなわれます。オイリュトミーとは、美しいリズムのことで、音楽に合わせてレクリエーションを楽しむ時間を大切にしています。
一方、フォルメンとは、直線や曲線などのさまざまな線をかく授業です。規則性のある模様をかくことで、バランス感覚や集中力を養います。
4 シュタイナー教育が子どもに与える影響
一般的な学校とシュタイナー教育では、教育方針も教育内容も全く異なります。独特な環境のなか、子どもにどのような影響を与えるのか心配になる人も多いのではないでしょうか。そこでここからは、シュタイナー教育が子どもに与える影響として、メリットやデメリットをご紹介します。
4-1 シュタイナー教育のメリット
シュタイナー教育では、独特な学びが導入されており、子ども達にはさまざまな影響が与えられます。体・心・頭をバランスよく育てることで、自分で決断して行動する力が身に付くといえるでしょう。そのほか、シュタイナー教育には以下のようなメリットが挙げられます。
- 集団としての教育ではなく、気質に合った適切な対応が可能
- 自由を尊重してもらえることから、判断力や決断力が身に付く
- 美しいものや芸術的なものに触れる機会が多く、感受性が豊かになる
- エポック授業により、ひとつのことに集中して取り組む力を身に付けられる
- 一貫教育により、安定した生活や理解者を得られる
- 学習に対するテストがないため、のびのびと育つ
4-2 シュタイナー教育のデメリット
独特な教育法を取り入れるシュタイナー教育では、発達段階に応じた教育を大切にしているため、成長過程のなかである程度の制限が生まれてしまいます。その制限を窮屈に感じてしまうこともあるでしょう。そのほか、シュタイナー教育には以下のようなデメリットが挙げられます。
- 発達段階に応じた教育が基本のため、年齢によっては特定のスポーツを制限される
- 早期教育を避けるため、テレビやゲームを制限される
- テストで学力を評価しないため、学習の理解度を確認できない
- シュタイナー教育の指定校でなければ、卒業資格を得られない
- クラスや担任が変わらないため、価値観が狭まる恐れがある
5 まとめ
この記事では、シュタイナー教育の特徴や、与えられる影響について解説しました。シュタイナー教育には、それぞれの年齢や気質に合わせて遊びや学びを提供する特徴があります。
一般的な学校との違いも多く「独特で変わった教育思想」と感じる人も少なくないでしょう。しかし、発達段階の分類やシュタイナー教育が求める「自由な自己決定」といった観点から考えると、そこにはしっかりとした理念が掲げられていることが分かります。
シュタイナー教育に携わりたい、もしくは教育を受けさせたいと考える場合は、ねらいや意図をしっかり理解しておきましょう。