保育園では、日々たくさんの子どもたちが入園してきますが、中には生まれながら障がいを持っている子どもたちもいます。そのため、保護者から「療育」について相談されることも多いです。
ですが、実際に保育園などの保育施設では療育を行わないところも多く、保護者から相談されても適切対応できないということが起きてしまうでしょう。
そこでこの記事では、療育とはどのようなものなのかという基礎部分から療育が子どもたちにもたらす効果をわかりやすく解説します。また、記事の後半では療育を必要とする子どもへの接し方や注意点なども紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
1.療育とは?
療育は、障がいのある子どもが自分で考え、正しく成長できるようにさまざまな面からサポートをすることです。
特に子どもは自分が障がいを抱えていても、どのように行動すればいいのか正しく判断することはできません。そこで、保育士が適切な知識とコミュニケーションを通して子どもたちをサポートしていくことが重要となります。
また、この療育については保育園ではなく保健所に対してですが、児童福祉法でも以下のように定められているのです。
「保健所長は、身体に障害のある児童につき、診査を行ない、又は相談に応じ、必要な療育の指導を行わなければならない。」
引用:児童福祉法/第一款療育の指導
このように療育は、単なる障がいのある子どもたちへのサポートということではなく、公的に認められている方法と言えます。ただし、本格的な療育については国から指定された施設で行うため、保育園側としては子育てに悩んでいる保護者の相談やサポートに応えることや障がいを持っている子どもたちへの正しい接し方などを身につけておくことが重要になるでしょう。
2.主な療育の種類は5つある
療育はさまざまな方法で行われるため、子ども一人ひとりに合わせた療育が必要になります。その中でも主な療育は以下の5つです。
2-1.薬物療法
障がいの中でも自閉症などの社会的なコミュニケーションが取りにくくなるような症状には、現在でも効果的な対処法が確立されていません。そのため、基本的には対症療法という形で薬物と療育をセットで行うことが推奨されています。
この薬物療法における最大のメリットは、薬による作用で一時的な症状緩和が期待できることです。症状を緩和できれば、その間に適切な行動や考え方を学ばせることができます。
一方で、1番の懸念点としては薬である以上、副作用が必ずあるという点です。したがって、薬が処方されている子どもを受け入れるときは、事前に保護者から状況をヒアリングし、こまめに連携を取ることが大切になります。
2-2.食事療法
食事療法は、小麦に含まれるグルテンや乳製品に含まれるカゼインなどの栄養素を除去した食事をすることで、行動面や学習面の改善を目指すという方法です。しかし、この食事療法はいまだに科学的な証明がされておらず、専門家の中でも意見が分かれています。
そのため、保育士側が断定してサポートすることはできませんが、子どもたちが小麦や乳製品のアレルギーを持っている場合は、食事療法を行うことで体調面および生活の質が向上する効果があります。特に保育園では、給食として同じ献立を子どもたち全員に提供することがあるため、あらかじめ保護者からアレルギー反応が出る食品などを調査しておくと安心でしょう。
2-3.音楽療法
音楽療法は、名称のとおり音楽を用いて周りとコミュニケーションを取ったり、音楽に合わせて身体を動かすことで運動機能の発達を促したりする方法です。例えば、音楽に合わせて歌を歌う場合は、自然と周りの声や音などを聞いてタイミングを意識するようになります。このように普段の生活では、なかなか周りを意識できない子でも音楽を通すことで自然と社会的なコミュニケーション能力を身につけることが可能です。
ただし、本格的な音楽療法を行う場合は「音楽療法士」という民間資格を持った専門家が行います。そのため、保育士は音楽を通して治療をするというよりも、周りの友達とコミュニケーションが取りやすくなるようサポートしてあげることを意識すると良いでしょう。
2-4.作業療法
作業療法は、主に五感と呼ばれる「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚」を刺激し、感覚処理や感覚の統合をサポートする役目があります。一般的な子どもの場合、先ほどの五感に加えて身体の動きや手足の状態を把握する「固有感覚」と身体の傾きやスピードなどを把握する「前庭感覚」をうまく整理しながら生活できているのです。
しかし、自閉症などの障がいを抱えている子どもたちにとっては、上記の五感や固有感覚、前庭感覚など複数の感覚を整理・統合することが難しいと言われています。そのため、大型のブランコや平均台のように自然と身体のバランス能力や体幹を使う運動をさせることで、感覚の整理や統合をサポートすることが作業療法の大きな役割です。
また、ブランコや平均台などバランス感覚を養う遊びは、自然とさまざまな感覚を伸ばすことができるだけでなく、ゲーム感覚で周りの子どもたちも混ぜながら行うと楽しみながらコミュニケーション能力を伸ばすことができます。したがって、障がいを持っている子どもに付きっきりでサポートするのではなく、できるだけ周りと交流が持てるように保育士がサポートしてあげましょう。
2-5.TEACCH(ティーチ)
TEACCHは(Training and Education of Autistic and related Communication Handicapped Children)の頭文字をとったもので、自閉症などの障がいによって周りの子どもたちとうまくコミュニケーションを取れない子どもやその保護者を包括的にサポートするプログラムのことを指します。このプログラムは、アメリカ・ノースカロライナ州で実際に取り入れられており、数ある療育の中でもはっきりと効果が証明されている数少ない方法です。
具体的な方法としては、声など目に見えない情報で子どもに伝えるのではなく、環境を整備して視覚的に物事を捉えてもらうように工夫します。例えば、これから何をする時間なのかを紙やホワイトボードなどに書く方法です。このように文字として書いておけば、「今は〇〇をする時間なんだ」と視覚的に意識できるようになります。
特に障がいを抱えている子どもにとっては、目に見えない情報を自分の頭の中に留めておくことがかなり難しいです。そのため、TEACCHでは視覚的な情報に変換したり、環境自体を工夫することで正しい成長を促すことができます。
3.療育による3つの大きな効果
ここまででさまざまな療育方法をご紹介しましたが、上記のような療育を実践することで子どもたちへ与えられる大きな効果は3つあります。
- コミュニケーション能力が身に付く
- 日常生活に必要な考え方や能力が身に付く
- 自分への自信が身につく
この3つの効果はいずれの療育方法でも効果が期待できるものなので、保育の現場で療育を行うときは特に意識すると良いでしょう。
3-1.コミュニケーション能力が身に付く
療育を行うことによって、自然と周りの子どもたちと関わる機会が増えるためコミュニケーション能力を高めることが可能です。特に自閉症などをはじめ、障がいを持っている子どもにとっては「相手の話をじっと聞く」や「待つ」という行為がなかなかできません。
しかし、その部分を療育でサポートしてあげることで徐々に相手への思いやりや正しい対応の仕方などを学べるでしょう。障がいを抱えていない子どもたちと比べるとどうしても発達が遅れてしまいますが、保育園は小学校へ上がる前の大切な期間なので保育士がしっかりとサポートしてあげることが重要です。
3-2.日常生活に必要な考え方や能力が身に付く
療育を必要とする子どもの場合、食事や排泄など日常生活で必要となる能力が足りないこと多いです。症状にもよりますが、発達障がいを持っている子どものほとんどが「自分の興味のあること」のみに反応する傾向があります。つまり、好奇心はあるけれども周りの様子や話はなかなか本人には届いていないということです。
しかし、療育を行うことによって自分の周りにいる子たちや環境を少しずつ意識できるようになるので、自然と食事や身支度など自立した生活を送れるようになるでしょう。
3-3.自分への自信が身に付く
療育の効果が出てきはじめると、徐々に他人とコミュニケーションが取りやすくなってきたり、日常生活に必要な能力も身についてきたりします。その結果「自分一人でもできることはたくさんある!」と意識できるようになり、自然と自信を身につけることにつなげられるでしょう。
特に障がいを持っている子どもは、周りの大人が思っている以上に他の子と比べて劣等感を感じてしまう可能性が高いです。そのため、療育を通して保育士が障がいを持っている子どもやその保護者に寄り添って対応することが大切になります。
4.療育を必要とする子どもへ接するときのポイント
療育を必要としている子どもは、少なからずそれぞれの障がいを抱えています。そのため、接するときは以下のポイントを意識するとコミュニケーションが取りやすく、療育の効果も出やすくなるでしょう。
4-1.共感してあげる
先ほども少し述べましたが、障がいを持っている子どもは外で遊んだり、絵を描いたりするときなど普段の何気ないところで劣等感を感じてしまう場合があります。そのため、保育士としては、その子の主張ややっていることに対して「すごいね!」や「うまいね!」のように褒めてあげると同時に共感してあげることが重要です。
この共感するという行為をすることで、「自分はこのままでも大丈夫なんだ」や「先生に褒めてもらえた」とポジティブに他人の言葉を受け取れるため結果的に自己肯定感が高まり、良い方向へ成長させることができるでしょう。
4-2.威圧せず、子どもの意見を受け入れる
療育を必要とする子どもは、一般的な子どもたちと比べると周りが見えず自分の意見だけを通してしまうこともあります。しかし、そういった場面で保育士が叱るように威圧してしまうと、療育としては逆効果になる可能性もあるでしょう。
したがって、子どもの発言や行動に対して威圧的に接するのではなく、先ほども述べた「共感」をしたうえで指導します。例えば、遊ぶ時間が終わってもまだ遊びたいと言ってごねている場面を考えてみましょう。
悪い接し方の例は以下のとおりです。
一般的には良く使うフレーズですが、特に療育が必要で障がいをもともと持っている子どもに対しては、少し高圧的な印象になるので避けたほうが良いでしょう。
一方、良い接し方の例は以下のとおりです。
悪い接し方の例と比べてもわかるように、良い接し方の例では、まず子どもが今やっている行動を一度「共感・理解」します。そのうえで子どもにとってほしい行動を伝えるという流れです。
このように一度子どもの行動や発言に対して理解していることを示すことがとても重要になるので、まず子どもの意見を受け入れてから接するようにすると良いでしょう。
4-3.子どもが自信を持てるような言葉をかける
先ほども述べたように療育が必要な子どもは、障がいをもともと持っていることから無意識に他の子どもたちと自分を比べてしまうときがあります。そのため、実際には口に出さなくても劣等感を感じてしまいネガティブな思考になりがちです。
したがって、保育士は普段から子どもと接するときに子どもが自信を持てるような言葉を投げかけるようにしましょう。例えば、「次がんばろう」ではなく「よくがんばったね」と言いかえたり、失敗したとしても「最後まで良くできたね、すごいね。」のように伝えたりできると子どもにとっては失敗しても前向きな気持ちでいられるようになります。
このように子どもが失敗したとしてもその行動をしたこと自体を褒めてあげることで、劣等感を感じにくく、伸び伸びと成長できるようになるでしょう。
5.療育を行うときの注意点3つ
療育を行うときは注意しなければならない点が3つあります。
- 保護者との連携を密に行う
- 支援が必要な子に近づけることが療育ではない
- 療育手帳の有無を確認する
上記3つは、療育を行ううえでとても重要なものになるのでしっかりと確認しておきましょう。
5-1.保護者との連携を密に行う
療育が必要な子どもは、一人ひとり異なる障がいを持っていることがあります。そのため、普段の症状や性格、状況などの情報を保護者と必ず共有するようにしましょう。また、保育士は保育園での様子なども細かく保護者へ伝え、常に連携を取れる状態にしておくと理想です。
例えば、子どもへの接し方は保護者と比べて子どものことを学問レベルで学んでいる保育士のほうが適している場合もあります。そのため、保育園での様子からその子どもに合った接し方を保護者にアドバイスすることも可能でしょう。このように家庭と保育園両方で正しい接し方ができれば、子どもも自己肯定感が高まりやすくなります。
5-2.支援が必要ない子に近づけることが療育ではない
サポートする側としては、どうしても障がいのある子とない子で分けてしまいがちです。しかし、療育は前述しているように「子どもたちの性格や特徴に合わせて、自立した生活が送れるようにする支援」です。したがって、あくまでも障がいを抱えている子ども一人ひとりに合わせた支援をすることが重要になります。
そのため、必ずしも障がいを抱えていない子に近づけることが正解ではありません。むしろ、できないことがあっても大丈夫と保育士から言われたほうが子どもにとっては伸び伸びと成長しやすいでしょう。子どもの性格や育った環境によっても成長スピードは異なるので、その子が自立して生活できるようにすることを目標に接するようにしてみてください。
5-3.療育手帳の有無を確認する
療育手帳は、児童相談所などから知的障害があると判定されると交付されるものです。そのため、療育を必要とする子どもを受け入れるときは必ず療育手帳を持っているかどうかを保護者に確認するようにしましょう。
理由としては、厚生労働省が療育手帳を交付されている人に対して以下のように定めているからです。
「療育手帳をお持ちの方は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスや、各自治体や民間事業者が提供するサービスを受けることが出来ます。」
引用:厚生労働省|障害者手帳
このような支援やサービス内容を知らない保護者もたくさんいるので、療育が必要な子どもを受け入れるときはまず療育手帳の有無を確認するようにしましょう。さらに療育手帳には、障がいの程度も記載されているので保育士が子どもに対してどのように接すればいいのかを検討する大切な情報源にもなります。
6.まとめ
療育はたとえ障がいを持っていたとしても日常生活や集団生活をする中で、自立した活動ができるように支援するためのものです。そのため、本文にも記載した注意点3つは特に意識するようにしましょう。
また、保育士は子どもにとって保護者の次に身近な大人であり先生です。たくさんの園児がいるためその子一人に付きっきりというのは難しいですが、今回紹介したような接し方を意識してコミュニケーションを取ることで子どもの成長をサポートすることにつながります。
保育士一人ひとりが子どもの特性に応じた対応をできるようになると、どんな子どもたちでも伸び伸びと成長できる保育園にすることができるでしょう。