保育園は、子どもたちの人間性を成長させる大切な場としての役割があるため、他の職種とは異なるやりがいを感じる保育士も多いです。一方で、給料や日々の業務量によっては退職を考えることもあるでしょう。
そこで今回は、保育士の退職理由をランキング形式で紹介します。実際に保育士として勤務していた人たちがどのような理由で退職したのかを知ることで、今後の準備や心構えをすることができるでしょう。
また、退職を決断するときの注意点についても詳しく解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
1.保育士の退職理由をランキング形式で紹介
保育士の退職理由を紹介する前に保育士の離職率について解説しておきます。まず、日本全国の離職率は厚生労働省の調査によれば「14.2%」です。一方、保育士の離職率は「9.3%」となっており、日本全国と比べると離職率自体は低い水準にあるのです。
参考:令和2年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省
参考:保育士の経験年数、採用・離職の状況|厚生労働省
つまり、保育士は離職する人も確かにいますが、特別離職率が高い職種ではないということになります。この現状を踏まえたうえで、保育士の退職理由をランキング形式で紹介していきます。また、退職理由については独立行政法人福祉医療機構が調査した以下の結果を参考にしました。
1-1.1位:転職(保育業界)
上記のグラフからもわかるように保育士の退職理由でもっとも多かったのが「保育業界への転職」です。つまり、待遇改善やキャリアアップを見据えて別の保育園に転職する保育士が多いということになります。
また、保育士として働いていた人が再就職するときに希望する条件としては、以下のような調査結果になっています。
希望条件の上位が「通勤時間」「勤務日数」「勤務時間」になっていることから、特に女性保育士の場合は妊娠・出産などを機に労働環境の改善も兼ねて転職する人が多い印象です。さらに、妊娠・出産ではなくても給与面の改善以上に通勤時間や勤務日数など労働環境を重視する保育士が多くなっていると言えるでしょう。
1-2.2位:結婚
次に多かった退職理由は「結婚」です。保育士の業務には子どもたちの保育以外にもさまざまな仕事があるため、一般的な職種と比べると家庭との両立を大変と感じる保育士は多いでしょう。
そのため、結婚を機に一旦退職するか正規職員ではなくパートなど非常勤採用の形で勤務する保育士もいます。ただ、結婚を退職理由とする方のほとんどが妊娠・出産などを見据えた退職であることが多いため、あらかじめ保育園に産休や育休がしっかり取得できるのかを相談しておくと良いですね。
したがって、結婚したからといって必ずしも退職する必要はなく、産休や育休などの制度が完備されているのであれば積極的に活用していきましょう。もちろん、家庭ができたことでもっと待遇の良い保育園へ転職するための退職であれば、問題ありません。あくまでも「結婚=退職」という暗黙の了解にならないよう注意してくださいということです。
1-3.3位:体調不良
先ほども少し述べましたが、保育士の仕事は保育だけでなく各種イベントの準備や保護者対応などさまざまな業務があります。そのため、肉体的疲労だけでなく精神的な疲労も蓄積しやすくなり、結果的に体調を崩してしまう保育士も多いです。
体調不良による退職は、自身を守るためにも必要なことだと言えるので、きちんと医療機関を利用して診断書をもらうようにしましょう。診断書は医師からの証明書でもあるため、体調不良を理由に退職するときは、必ず診断書も合わせて提出するとスムーズに退職できます。
ですが、体調不良だからといって、無断欠勤・遅刻をしたりいきなり退職届を提出したりすることは絶対に避けてください。退職することは保育士の権利ですが、保育園側も子どもたちを安全かつ安心して預けてもらえるような体制を整える必要があるので、いきなり保育士が退職してしまうと子どもを預けている保護者の方にも迷惑がかかってしまいます。
したがって、体調に変化が出たときにはまず直属の上司もしくは園長にあらかじめ相談するようにしましょう。
1-4.4位:転職(他業界)
第4位は他業界への転職です。保育士から他業界へ転職する主な理由としては、待遇面の改善や育児をするうえで勤務時間などの労働環境を見直したいと考える保育士が増えているからでしょう。
先ほど示した「保育士として再就職する場合の希望条件」のグラフにおいても、給与面と労働環境の改善を希望する保育士が多いということがわかります。実際、保育士の給与に関しては「キャリアアップ研修制度」の導入など、徐々に待遇改善のための施策が打ち出されていますが、それでもまだ保育士の年収は全国的にも低い水準にあるのは事実です。
そのため、給与をもっとあげたいという声や育児のために通勤時間や勤務日数などを見直したいという声が保育士の中で多くなっているのでしょう。ただし、給与面や労働環境を変えるために他業種へ転職することは、転職先の業種に慣れるまで今まで以上に大変であることも忘れないでください。
1-5.5位:出産・育児
第5位は出産・育児による退職です。保育士の勤務時間は「早番・中番・遅番」などのシフト制で決められていることがほとんどで、子育てをしながら保育士として勤務することが難しいと感じる方も多くいます。そのため、妊娠をした時点で子育てに専念したいという気持ちから退職されるということです。
しかし、ほとんどの保育園では産休や育休などの制度をあらかじめ用意しているところも多いため、妊娠をしたからすぐに退職してしまうよりもまずは上司や園長に相談することが大切でしょう。さらに、保育園によっては育児をする保育士に負担をかけないよう通常よりも勤務時間を短くしたり、残業をさせないようにしたりするところも増えてきています。
ぜひ、保育園や各自治体が用意している制度を活用したうえで、退職は判断するようにしましょう。
2.保育士が転職することのメリット3つ
先ほど紹介した保育士の退職理由ランキングでもっとも多かった理由として「転職(保育業界)」がありました。転職する理由は保育士によってさまざまですが、保育士が同じ業界へ転職することの明確なメリットは大きく3つあります。
2-1.給与面などの待遇を改善できる
保育園ごとにそれぞれ規模は異なります。そのため、大規模の保育園になればなるほど経営状態は良いと言えるため、小規模の保育園と比べる給与が高くなる可能性があるでしょう。
したがって、小規模の保育園から大規模の保育園へ転職して給与面の待遇を改善できるというメリットがあります。ちなみに給与面については、「公立保育園と私立保育園ではどちらのほうが高いのか?」と疑問に持つ保育士が多いですが、給与だけで見るとそこまで大きな差はないでしょう。
ですが、公立保育園に勤務する保育士は公務員扱いになるため、福利厚生が私立保育園の保育士と比べてより手厚いサポート受けることができます。このような点から公立保育園への就職を希望される保育士も多いです。
2-2.より働きやすい環境に身をおける
保育園によって福利厚生や日々の労働環境は全く違うので、求人情報を確認して今までよりも働きやすい環境を選ぶことができます。具体的な例としては、福利厚生が充実していたり、子育てなど家庭の状況によって勤務時間や日数に融通が利いたりするなどです。
繰り返しになりますが、保育士は肉体的にも精神的にも負荷がかなりかかる職種なので給与面以上に「保育士が働きやすい環境に身をおく」というのはとても重要と言えるでしょう。
2-3.キャリアアップ研修の修了証は転職しても効力がある
保育士の待遇改善策としてキャリアアップ研修制度が導入されていますが、この研修制度を利用して修了した研修には、県から修了証を交付されます。また、この修了証は有効期限がないため、転職したとしても研修を修了したという実績は残るのです。
つまり、転職時に「前の職場で〇〇という研修を修了しています」というアピールができ、キャリアアップ研修を行っていない一般的な転職者と比べるとかなり有利に転職活動ができるようになります。したがって、キャリアアップ研修制度を利用しているという条件付きではありますが、修了証を持っていると転職活動を有利に進めながらキャリアアップも同時できる可能性があるのです。
3.退職を決断するときの注意点3つ
一度「退職しようかな…」と考えてしまうと、今の職場に対してネガティブな面しか見えなくなりがちなため、退職する決断を早まってしまう保育士もたくさんいます。
そこで退職を決断するときの注意点として3つほど紹介します。以下の注意点を把握したうえでも退職したい意思が固いのであれば、本格的に退職するための準備へ移るようにしてください。
3-1.勤務期間が短い状態での退職は危険
これは新卒の保育士に多いのですが、求人情報やホームページだけの情報を鵜呑みにして就職したことで「思っていた仕事と違う」と感じてしまい退職または転職を考えるという流れです。
しかし、保育士としての勤務期間があまりにも短い状態で退職してしまうと、いざ転職しようとしても転職先に警戒される可能性があります。特に保育士は実務経験(勤務年数)を軸にキャリアが決まる傾向にあるため、医師からの診断書付きの体調不良などやむを得ない理由以外で簡単に退職するは危険でしょう。
3-2.保育士における産休・育休制度は充実している
保育士の退職理由ランキングとして前述しているように、出産や育児を理由に退職してしまう保育士は多いです。しかし、保育士における産休・育休制度は保育園側が独自で用意しているケースもありますが、もともとは厚生労働省が公的に定めている制度なので、取得条件を十分に満たしていれば確実に産休・育休は取得できます。
つまり、妊娠や出産をするから退職したほうが良いという考えをするのではなく、まず保育園側が独自で産休・育休制度を用意しているかどうか確認するようにしましょう。ちなみに産休・育休制度を利用するには、必要書類に加えて本人からの申請が必要になるので必ず直属の上司または園長に相談してみてください。
3-3.キャリアアップ研修制度によって待遇を改善することは可能
先ほどから少し述べているように保育士には、給与などの待遇を改善させる措置として「キャリアアップ研修制度」が導入されています。このキャリアアップ研修制度を活用して役職に就ければ、毎月の給与に月額5,000〜40,000円ほど上乗せ可能です。
このように劇的な給与アップは見込めませんが、定められた研修を受講して保育士としての価値を高めていければ給与面の改善は十分できるという点は覚えておきましょう。
4.保育士が退職を伝えるときのポイント3つ
現在の職場から転職するために退職するとしてもできれば円満に退職できたほうがいいですよね。そこで、保育士が実際に上司または園長へ退職する旨を伝えるときのポイントを3つ紹介します。
4-1.繁忙期は避ける
1つめは、退職を切り出すタイミングとして繁忙期をできるだけ避けるようにしましょう。理由としては、繁忙期は季節ごとのイベント準備や保護者への対応などがあるため、そのような時期に退職を申し出てしまうと保育士側も保育園側もかなり大変になってしまうからです。
ただし、保育園は一般的な企業とは違い入園式や運動会、卒園式など大きなイベントからお遊戯会、クリスマス会など細かいイベントもたくさんあります。したがって、退職を切り出すタイミングとしてはイベント終了直後にするのがおすすめです。また、退職することを伝えるときは退職希望日よりも3〜6ヵ月前には伝えるようにしましょう。
4-2.引き継ぎはしっかり行う
2つめは、自身が担当していた業務の引き継ぎをしっかりと行うことです。保育士が1人退職するということは、担当していたところに新たな保育士を配置しなくてはなりません。
そのため、スムーズに退職処理をしてもらうためにも後任の保育士へ担当していた子どもたちの情報や業務を行うときの注意点などを細かい部分まで伝えるようにしましょう。
4-3.上司や園長に退職相談はしない
3つめは、上司や園長に退職することを事前に相談しないことです。相談もせずに退職を切り出すことの罪悪感を抱いてしまう保育士も多いですが、そこは少し我慢をして可能な限り事前相談はしないようにしましょう。
理由としては、上司などへ事前に相談してしまうと対応が変わってしまったり、執拗な引き止めが入ったりと退職したいのになかなかできないという状況になってしまうこともあるからです。
特に転職を考えて退職する場合、執拗な引き止めで転職活動に支障が出てしまうことも多々あります。そのような状況を避けるためにも、退職することを完全に決断した段階で申し出るようにしましょう。
5.まとめ
今回は保育士の退職理由から実際に退職するときの注意点とポイントを解説しました。保育士が給与面や労働環境を改善するために退職することは、全く問題ありません。むしろ、長く保育士として勤務していくには、待遇や環境はかなり重要です。
しかし、思いつきや制度の理解不足で退職してしまうことは、非常にもったいないです。したがって、「本当に退職すべきなのか?」「なぜ、退職したいのか?」という問いを必ず考えたうえで、今回紹介した退職における注意点とポイントを意識してみてください。