これまで保育士の給与は、一般的な職種と比べて下回っていることから2017年には「処遇改善等加算Ⅱ」が導入され、賃金アップとともに新たな役職が設けられました。その結果、平均給与が30.3万円にまで回復しましたが、それでも全職種の平均給与と比べて下回っている状況です。
そこで、更なる待遇改善を目指して保育士をはじめ、看護・介護・保育・幼児教育に携わる職種の待遇改善が行われることが令和3年12月21日に公的価格評価検討委員会から発表されました。この記事では、今回岸田内閣によって発表された保育士の賃金アップが具体的にどのような形で行われるのかを詳しく解説します。
また、複数回にわたって待遇改善をされてきた保育士ですが、さらに賃金がアップすることでどのようなメリットを得られるのかまで合わせて解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.岸田内閣が発表した保育士等の賃金アップ政策のポイント
岸田内閣から発表された保育士等の賃金アップ政策における大きなポイントは、以下の3つです。
- 公的価格評価検討委員会の設置
- 保育士は2022年2月から賃金の引き上げ開始
- 安定的な財源確保への課題
特に今回発表された政策の特徴として、引き上げ開始時期が明確に述べられていたところにあります。12月21日に発表されてから最短で翌年の2月には順次実施され始めるため、良いスピード感で改善されるでしょう。
それでは、それぞれのポイントについてもう少し詳しく解説します。
1-1.公的価格評価検討委員会の設置
公的価格評価検討委員会は、医療や介護、保育等に関する関係団体から各現場の状況や課題を把握し、随時処遇改善を検討・実施していくための機関です。特に岸田内閣では、看護・介護・保育・幼児教育などの新型コロナウイルス感染症への対応や少子高齢化への対応を最前線で行っている職種の賃金の引き上げを掲げています。
そのため、今後も「公的価格」の見直しおよび改善が行われ、以前は「提供するサービスに比べて賃金が少ない」と感じていたものが少しずつ改善されていく可能性が高いです。
1-2.保育士は2022年2月から賃金の引き上げ開始
今回発表された保育士等における賃金アップの政策が実施されるのは、2022年2月から早速開始されます。以下は、公的価格評価検討委員会が発表した中間整理に記載されている内容です。
“保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置を、令和4年2月から実施することとした。”
引用:公的価格評価検討委員会 中間整理 令和3年12月21日
現在行われている保育士への賃上げ措置として「キャリアアップ研修制度」などが実施されていますが、今回の賃上げ政策はさらに上乗せされる形で実施されます。したがって、これまで以上に提供するサービスに対する保育士への給与は、かなり改善されるでしょう。
1-3.安定的な財源確保への課題
保育士等の賃上げ政策を実施するにあたっては、メリットだけでなく現状課題もいくつかあります。その中の一つが安定的な財源確保という課題です。
今回決定した保育士等の賃上げを行う政策には、2021年度補正予算の一部(2,600億円)が計上されました。したがって、一時的ではなく継続的に賃上げを行うには補正予算ではなく、より安定的な財源の確保が必要となります。
ちなみに看護職における予算については、以下のような措置を講じる予定とされています。
“令和4年2月から実施した上で、 来年 10 月以降の更なる対応について、令和4年度予算編成過程において検討 し、必要な措置を講ずることとした。”
引用:公的価格評価検討委員会 中間整理 令和3年12月21日
つまり、保育士や幼稚園教諭などの幼児教育に関する職種についても予算編成で組み込まれるようになれば、継続的な待遇改善が期待できるでしょう。
2.保育士の賃金アップによるメリット
ここまでで、2022年2月に実施される保育士等の賃上げ政策の概要から現状抱えている課題について解説をしました。しかし、実際に賃金がアップすることは収入が増える以外にどのようなメリットがあるのでしょうか?
保育士の賃金が引き上げられることで得られる大きなメリットは3つあります。
2-1.キャリアアップ研修制度との相乗効果
出典:公的価格評価検討委員会 中間整理 令和3年12月21日
先ほども少し述べましたが、現在は保育士の処遇改善措置として「キャリアアップ研修制度」というものがあり、給与アップが以前よりもしやすくなっています。さらに今回は、キャリアアップ研修制度とは別に収入の3%程度の引き上げを行うため、かなり大きな相乗効果になるでしょう。
例えば、キャリアアップ研修制度を利用して規定の研修を修了することで、職務分野別リーダーになった場合、月額5,000円が給与に加算されます。さらに今回の政策が適用されれば、月額9,000円が上乗せされる形になるのです。
このように保育士としての技能を高め、キャリアアップを図ることで以前よりも大きく給与の改善が見込めるようになるでしょう。
2-2.モチベーションの維持・向上
賃金の引き上げは、保育士にとってモチベーションの維持または向上にもメリットがあります。特に保育士を退職してしまう方の理由の中には、「給与に対して仕事量が割に合っていない」と感じている保育士も多いです。
したがって、給与の引き上げはこれまで提供する仕事量に対して報酬が見合っていないと考えていた方にとっては、モチベーションを高めるきっかけになる可能性があります。また、新人の保育士からすると、キャリアアップ研修制度も併用すれば、給与を大きくアップできるという具体的な目標が立てられるようになるため、新人保育士と既存の保育士双方にメリットがあるのです。
2-3.人材不足の軽減効果
保育の現場では、仕事量に対して賃金の水準が低くなっていることも起因して深刻な人材不足に陥っています。そのため、全国的に待機児童という大きな課題がある一方で、保育園側は保育士の人数が不足していることで、なかなか現状が改善できない状況でした。
しかし、今回の政策がうまく機能することで、保育士の給与がかなり改善されるため、新たに保育士を目指そうとする学生や再就職先として保育園を選択肢に加える人も増えてくる可能性が高くなります。
このことからも今回発表された保育士等の賃上げ政策は、単なる待遇改善の効果だけでなく保育士や幼稚園教諭などの幼児教育全体に良い影響を与えられるでしょう。
3.政策による賃金アップと同時に保育士のスキルアップも重要
最後に今回の政策が実施されることと同時に保育士が意識すべき重要な点を紹介します。それは、政策等による待遇改善を期待するだけでなく保育士としてのスキルアップも重要になるという点です。
たしかに、以前と比べると保育士をはじめ、介護や看護という職種に対して注目が集まるようになり、少しずつですが働きやすい環境に変化しつつあります。しかし、国の政策や各自治体による支援だけを頼っていくのではなく、保育士としてのスキルを向上させ自身の実力でキャリアアップも図っていかなければなりません。
つまり、政策や制度によるバックアップを受けながら保育士としてのキャリアもしっかりと確立させていくことが、今後の保育士には必要になることを忘れないようにしましょう。
4.保育士の待遇は今後も改善される可能性あり!
今回は、岸田内閣が発表した保育士等の賃金アップ政策について概要から保育士に与える具体的なメリットについて解説しました。
保育の現場では2017年に創設されたキャリアアップ研修制度に加え、今回の賃金引き上げ政策など徐々に働きやすい環境へ変化しつつあります。さらに公的価格評価検討委員会の中間整理で、「今後も収入の引き上げが持続的に行われる環境整備をする」という旨が記載されているため、保育士への待遇改善は今後も継続される可能性があるでしょう。
繰り返しになりますが、今回発表されたような待遇改善の政策に加え、保育士としてのキャリアアップも同時に目指せるように意識してみてください。