中小企業の事業主にとって、運営資金のやり繰りはとても大変なことです。そのため、助成金を利用しながら事業運営することは重要なことと言えるでしょう。
この記事では、数多くある支援制度の中でも令和3年10月から施行された「中小企業子ども・子育て支援環境整備事業」について、助成内容とその条件を詳しく解説していきます。制度を正しく理解することで、少しでも余裕を持った事業運営を行えるようになるでしょう。
中小企業子ども・子育て支援環境整備事業とは?
中小企業子ども・子育て支援環境整備事業とは、内閣府の子ども・子育て本部が唱える「新子育て応援プラン」の1つとして実施されている支援策です。
とくに中小企業子ども・子育て支援環境整備事業は、従業員に対する育児休業等の取得を促進するなどの支援を積極的に行う事業に対して助成を行うことができます。そのため、企業における子ども・子育て支援環境の整備につなげ、待機児童の解消を図れると期待されている支援制度です。
詳しい助成内容については、以下のとおりです。
【助成内容・期間】
助成額 | 上限50万円 |
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実施期間 | 令和3年10月~令和9年3月末 |
受付期間(令和4年度) | 令和4年6月1日~令和5年1月31日 |
助成条件 | くるみん認定またはプラチナくるみん認定されている中小企業 |
あらかじめ提示されている条件を満たした中小企業事業主が申請をすることで、事業の実施に要する経費として1企業につき上限50万円の助成が可能となっています。また、助成を受けるには「くるみん認定」もしくは「プラチナくるみん認定」が必要という点に注意しましょう。
助成対象にできる経費は、以下のとおりです。
【助成対象となる経費】
- 職員給与
- 各種手当
- 社会保険料事業主負担金
- 厚生費等(役員報酬を除く)
- 諸謝金
- 備品費(単価50万円以上の備品を除く)
- 消耗品費
- 印刷製本費
- 通信運搬費
- 光熱水料
- 借料及び損料
- 会議費
- 賃金
- 雑役務費及び委託料
※消費税相当額を除く
くるみん認定・プラチナくるみん認定を受ける方法
「くるみん認定」とは、厚生労働大臣が要件を満たした企業を「子育てサポート企業」として認定することです。一方「プラチナくるみん認定」とは、くるみん認定を受けた企業がさらに基準を満たすことで「優良子育てサポート企業」として認定されることを言います。
ここでは、くるみん認定・プラチナくるみん認定を受ける方法として、申請までのプロセスを解説します。申請に至るまでにクリアすべき認定基準があり、基準を満たさなければ申請そのものができません。
【くるみん認定基準】
くるみん認定を受けるには、行動計画の計画期間が終了し、以下の9つある認定基準を全て満たす必要があります。
2.計画期間が「2年以上~5年以下」であること
3.行動計画を実施し、計画に挙げた目標を達成したこと
4.平成21年4月1日以降に、新たに策定・変更した行動計画を公表し、業員への周知を適切に行っていること
5.計画期間において、男性従業員のうち育児休業等を取得した者が1人以上いること
6.計画期間内において、女性従業員のうち育児休業等取得率が「70%以上」であること
7.3歳~小学校就学前の子どもを養育している従業員について、育児休業に関する制度・所定外労働の制限に関する制度・所定労働時間の短縮措置・始業時刻変更等の措置を講じていること
8.労働時間数について、次の1と2を満たしていること
⑴フルタイムの労働者等における法定時間外と法定休日の労働時間の平均が「各月45時間未満」
⑵月平均の法定時間外労働が「60時間以上」の労働者がいないこと
9.法および法に基づく命令、その他関係法令に違反する重大な事実がないこと
【プラチナくるみん認定基準】
プラチナくるみん認定を受けるには、12の基準を全て満たす必要があります。
12の要件のうち8つはくるみん認定基準と同じなので、それ以外の4つの要件についてご紹介します。
1.男性社員の育児休業等取得について、以下の1または2を満たしていること
⑴計画期間内において、男性社員のうち育児休業等を取得した者が「13%以上」
⑵計画期間内において、男性社員のうち育児休業等の取得者、および育児休業等に類似した企業独自の休暇制度の利用者の割合が「30%以上」、かつ、育児休業等の取得者が「1人以上」いる
2.以下の1~3(「くるみん認定基準」9の1~3と同様)のすべてに取り組み、かつ、1と2のうち少なくとも1つは定量的な目標を定めて実施し、目標を達成していること
⑴所定外労働の削減のための措置
⑵年次有給休暇の取得の促進のための措
⑶短時間正社員制度や在宅勤務、その他、働き方の見直しに資する多様な労働条件の整備などの措置
3.計画期間において、次のいずれかを満たしていること
- 子どもを出産した女性従業員のうち、子どもの1歳の誕生日に在職している者(育休中の者を含む)の割合が「90%以上」
- 子どもを出産した女性従業員、および出産予定だったが退職した女性従業員のうち、子どもの1歳の誕生日に在職している者(育休中の者などを含む)の割合が「55%以上」
4.育児休業等を取得し、あるいは、子育てをする女性従業員が就業を継続して活躍できるように、能力の向上やキャリア形成に向けた支援などについて行動計画を策定し、実施していること
上記の基準を全て満たしていれば、都道府県労働局の雇用環境・均等部に認定申請を行うことが可能です。ただし、上記の認定基準については、改定される部分も徐々に増えてきているため、これから認定申請を検討している方は注意しましょう。
【認定を申請する手順】
認定申請を行うには、以下の書類が必要になります。
- 一般事業主行動型作策定・変更届
- 認定申請書
どちらも厚生労働省のWEBサイトからダウンロードできるため、申請するときは必ず最新のものを利用しましょう。ちなみに「プラチナくるみん認定」は、事前に「くるみん認定」を受けていることが必須です。
したがって、「くるみん認定」を受けた後、行動計画期間が終了した段階で都道府県労働局へ申請する必要があり、通常では約30日程度で認定決定が行われます。
中小企業子ども・子育て支援環境整備事業における4つの目的
中小企業子ども・子育て支援環境整備事業とは、中小企業事業主において、労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために必要な整備を行う事業を指します。
ここでは、中小企業子ども・子育て支援環境整備事業における4つの目的を解説します。
①労働者の育児休業等の取得を促進するため
育児休業を気兼ねなく取得できるよう、パートや派遣スタッフなどの人材をしっかり確保しておく必要があります。
- 育児休業等取得者の業務を代替する労働者の確保
- 育児休業等の制度に関する周知
- 産前・産後休業、育児休業等の制度の普及・啓発のための研修・セミナーの実施・参加
- 育児休業取得者の職場復帰時の支援
また、育児休業の制度ついて具体的に知るためのセミナーや職場復帰時の不安を軽減するための研修会などを開催し、安心して育児休業を取得できる環境づくりをしなければなりません。
②労働者の子育てを支援するため
子育てと仕事の両立を図るため、短時間勤務やフレックスタイム制度を導入し、無理なく働ける環境を整えます。
- 所定外労働の制限、短時間勤務制度やフレックスタイム制度等の制度の導入・周知
- 上記の制度の普及・啓発のための研修・セミナーの実施・参加
- 事業所内保育施設または企業主導型保育所の設置・運営
- 労働者が利用した子育てサービスの費用の助成
仕事をするためには子どもの預け先の確保が必要なため、事業内保育施設を設置したり、保育所やベビーシッターにかかる費用を補助したりなどの取り組みを実施します。
③労働者の業務負担の軽減や所定労働の削減のため
パートや派遣スタッフを採用し、一人に対して業務負担が偏らないよう適切な人材を確保するための目的もあります。
- 所定外労働の削減、業務負担軽減のための労働者の確保
- 「ノー残業デー」や「ノー残業ウィーク」等の制度の導入・周知
- 所定外労働の削減に向けた措置
- 職場内の意識啓発のための研修・セミナーの実施・参加
- 在宅勤務やテレワーク制度導入などのための機械・器具購入、ランニングコスト
- 業務効率化・省力化の機械・器具購入、ランニングコスト
業務の効率化を図るための業務可視化ツールや勤怠管理システム、在宅勤務を選択できるようオンライン会議システムなど、デジタルツールを積極的に導入できるような環境づくりも重要なことと言えるでしょう。
④労働者の職業生活と家庭生活の両立を図るため
職業生活と家庭生活を両立するための年次有給休暇の取得促進や、会社独自の支援金制度などの福利厚生を充実させる取り組みを積極的に実施するという点です。
- 年次有給休暇の取得促進のための取組み
- コンサルタントを活用した職場環境の改善のための取組み
- 女性労働者の就業継続やキャリア形成の支援のための取組み
- その他労働者の職業生活と家庭生活との両立を図るための職場環境の改善や労働者の処遇改善に直接的に資する各種の取組み
とくに今後は、女性が安心して仕事を続けるために、キャリア形成についてのセミナーの実施やコンサルタントを雇い気軽に相談できる環境を作っていくことが必要になってくるでしょう。
助成対象となる事業者は大きく2つ
中小企業子ども・子育て支援環境整備事業の助成対象となる事業者は、先ほど解説した「くるみん認定」または「プラチナくるみん認定」を受けている事業者となります。
以下では、助成対象となる「くるみん認定」「プラチナくるみん認定」をされている事業者の条件を具体的にご紹介します。ちなみに「トライくるみん認定」企業は、交付対象外となるので注意しましょう。
①「くるみん認定」をされている事業者
- 子ども・子育て支援法に規定する一般事業主(事業主拠出金を納付している)であること
- 前年度または当年度(助成申請期間末日まで)にくるみん認定を受けていること
- 当該くるみんに認定に係る行動計画終了日の属する事業年度の末日が以下であること
- 令和4年度認定取得⇒令和3年4月1日以降
- 次世代支援対策推進法に規定する中小企業事業主(常時雇用する労働者数300人以下)であること
②「プラチナくるみん認定」をされている事業者
- 子ども・子育て支援法に規定する一般事業主(事業主拠出金を納付している)であること
- 前年度の3月31日時点においてプラチナくるみん認定を受けていること
- 次世代支援対策推進法に規定する中小企業事業主(常時雇用する労働者数300人以下)であること
まとめ
中小企業子ども・子育て支援環境整備事業の助成内容と条件を詳しく解説しました。女性の就業率が高まっている背景から、より子育てと仕事を両立しやすい社会を目指し、少子化対策に取り組んでいます。
助成金によって企業のさらなる子ども・子育て支援環境の整備につながり、待機児童の解消を図るという目的が達成できるでしょう。この記事を参考に、中小企業子ども・子育て支援環境整備事業の条件をしっかりと理解した上で助成金の申請を行い、確実に受け取れるようにしましょう。