保育園は、単に子どもたちを預かる場ではなく、子どもたちの人間性を育てながら安全に生活するための場所です。そのため、保育園を運営する側として、リスクマネジメントを常に行っておく必要があります。
しかし、リスクマネジメントと言っても考え方によっては、さまざまな実践方法があるため、具体的にどんな方法を実践すればいいのかわからない方も多いでしょう。そこで、この記事では、保育園にリスクマネジメントが必要な理由から具体的な実践方法を5のステップに分けて解説します。
これまでにリスクマネジメントを検討したことがないという方は、ぜひこの記事を参考に子どもたちが安心して成長できる環境を提供できるようにしてみてください。
1.保育園でリスクマネジメントが必要な3つの理由
保育園では、毎年たくさんの子どもたちが入園してきます。同時に預かる人数が増えればそれだけ子どもたちにとっての危険も多くなるでしょう。
したがって、以下のような理由から保育園でもリスクマネジメントを行う必要があるのです。
1-1.子どもたちの「命」を守るため
保育園は、子どもたちを成長させる場である以前に「子どもたちの命」を守ることが最優先になります。そのため、保育園を運営する側としては、常に万が一のケースを想定してあらかじめリスクを減らしておくことが重要です。
例えば、外で子どもたちが遊んでいるときにちょっと目を離したすきに遊具から落下してしまって、大怪我をしたもしくは死亡してしまったというケースも多いです。これは、子どもたちの行動に目が行き届いていなかったことで起こる危険の一つと言えます。
このような危険性を一つでも取り除けるように、保育園側が外遊びをするときは監督役として保育士の人数を増やすなどのリスクマネジメントを行っておく必要があるのです。
1-2.保護者に安心して預けてもらうため
リスクマネジメントを行うことで、子どもたちの安全性が担保されるため、保護者にとってはかなり安心して子どもを預けられるでしょう。とくに保育園へ子どもを預ける家庭は、共働きをしている割合が多く、保育園を信頼して利用しています。
つまり、保育園側には保護者がより安心して子どもを預けられる場所かどうかという点は、非常に重要な判断基準です。したがって、少しでも保護者から「この保育園に預ければ、安心」と思ってもらえるような信頼を獲得するためにも保育園におけるリスクマネジメントは、かなり大切な役割であると言えるでしょう。
1-3.周辺地域や社会的な信頼を保つため
先ほどは保護者からの信頼について述べましたが、リスクマネジメントをしっかり行うことで周辺地域や社会的な信頼を向上させることにも効果があります。なぜなら、保護者からの信頼を獲得することで、保護者同士のコミュニティを通じて保育園における子どもたちへの保育に対する姿勢などが伝わるからです。
保護者に加えて周辺地域や社会的にも高い信頼を獲得できれば、子どもを預けたいと思う保護者は増えてくるため、今後の運営もしやすくなるでしょう。
これらの理由から、保育園におけるリスクマネジメントは、子どもたちが安全かつ安心して成長できる環境を提供できるだけでなく、保護者や周辺地域からも信頼される保育園として運営できるようになります。
2.保育園運営では「リスクを最小限にする」ことを優先して考える
この後に具体的なリスクマネジメントの実践方法を解説していきますが、リスクマネジメントを行う前提意識として、「あらゆるリスクを最小限に抑える」という点を最優先に考えるようにしてください。
先ほど挙げた遊具から落下する例のように、子どもは大人と違い予想外の行動を取ることが多いです。そのため、大人にとっての万が一を考えておかなければ、子どもたちの安全を守ることはできません。
したがって、後述するリスクマネジメントの実践方法における「リスク」という言葉は、万が一を想定した危険のことを指します。とくにたくさんの子どもたちを預かっている保育園は、時間をかけて丁寧にリスクマネジメントを行うようにしてみてください。
3.保育園におけるリスクマネジメントの実践方法【5ステップ】
保育園でリスクマネジメントを実際に行うには、以下の5ステップを踏みながら実践すると良いでしょう。
- ①あらゆる場面のリスクを想定およびリスト化
- ②リスクの危険度や発生する状況を分析
- ③具体的な対策を検討
- ④対策を実践し効果測定を行う
- ⑤保育園独自のリスクマネジメントマニュアルを作る
とくに①〜③までのリスクに対する具体的な対策を検討するステップまでは、できるだけ時間をかけてあらゆるケースを想定しながら検討します。
3-1.①あらゆる場面のリスクを想定・リスト化
1つめのステップは、保育園内に起こり得るリスクの表面化とリスト化です。先ほども述べたようにリスクは、至るところに存在しているため、まずどのようなリスクが考えられるのか想定する必要があります。
また、リスクを洗い出すときは、可能な限り保育園に勤務している保育士をはじめ、全スタッフで考えるとリスクの漏れが少なくなるのでおすすめです。ある程度、リスクの洗い出しが完了したら、全スタッフが一目でわかるようにリスト化します。
ちなみにリスト化する理由としては、最後のステップでリスクマネジメントマニュアルの作成を行うため、リスクをリスト化しておくと新人のスタッフにも共有しやすくなるからです。
3-2.②リスクの危険度や発生する状況を分析
ステップ1でリスクのリスト化ができたら、一つひとつのリスクに対して「どこで」発生するのかや「どのような状況」で発生するのかという点を分析します。子どもたちが巻き込まれる可能性のあるリスクが、実際にどこで発生しやすいのかを把握しておくことで、人員の配置を変えたり、保育士への意識付けをしたりできるでしょう。
また、リスクが発生しやすい場所や状況があらかじめ把握できていれば、その場にいる保育士もスムーズに対応でき、最悪のケースなどは避けられる可能性が高いです。
3-3.③具体的な対策を検討
あらゆるリスクの洗い出しと分析ができたら、それぞれのリスクに対して具体的な対応策を検討しましょう。
例えば、先ほど述べた遊具から落下するというリスクに対しての対応策としては、落下する可能性のある遊具などで子どもたちが遊ぶときに保育士が1人そばに付いて見守るなどをすると効果的です。
このようにそれぞれのリスクについて、全スタッフで話し合い最善の対策を検討します。また、リスクマネジメントにおいては、それぞれのリスクに対して対応策を検討する工程までがとくに重要です。
そのため、繰り返しにはなりますが、ステップ1から3までは可能な限り時間をかけるようにしてください。
3-4.④対策を実践し効果測定を行う
ステップ3まででリスクに対して具体的な対応策が検討できたら、現場で実践し効果があるかどうかを確かめます。ここで、とくに効果がないような対策があれば、再検討しましょう。
一方、現場でも高い効果が見込まれる場合は、重要なリスクマネジメント項目として全スタッフに共有し、1つのリスクに対して全員が対応できる体制を整えておきます。このような効果測定を検討したリスクへの対応策を実施し、現場で必要かどうかを判断していきましょう。
3-5.⑤保育園独自のリスクマネジメントマニュアルを作る
ステップ4でリスクに対する対応策の効果測定が終わったら、最後の仕上げとして保育園独自のリスクマネジメントマニュアルを作成します。マニュアルとしてまとめておけば、新人の保育士やスタッフにも共有しやすく、場合によっては保護者へ見せることで安心感を与えることもできるでしょう。
4.リスクマネジメントは子ども以外にも適用させる
ここまでに解説したリスクマネジメントは、子どもを軸としたものでした。しかし、保育園を運営していくためには、子ども以外の部分にもリスクマネジメントを提供する必要があります。
4-1.保育園の運営に関するリスクマネジメント
1つは、保育園の運営に関するリスクマネジメントです。とくに私立保育園の場合、子どもを預けてもらえないと多くの保育士を雇えないだけでなく、運営自体も厳しくなります。
したがって、保育園を長く運営するために必要なことや運営するうえで考えられるリスクを想定しておく必要があるでしょう。つまり、保育園の経営面におけるリスクマネジメントも運営する側としては、考えなくてはなりません。
4-2.保育士に関するリスクマネジメント
2つめは、保育園に勤務する保育士に関するリスクマネジメントです。一般企業に例えた場合、保育園を運営している園長が経営者で、保育士やその他のスタッフは従業員になります。
そのため、経営者側は従業員が働きやすいような環境づくりにも気を配る必要があるでしょう。子どものことや保護者のことばかり考え、保育士の勤務形態などを考えないような運営をしてしまうと、退職者が増えて結果的に保育園を運営できなくなる可能性もあります。
したがって、保育園を長く運営していくためには、預かっている子どもたちを優先に考えることも重要ですが、運営やスタッフの対応などについてもリスクマネジメントを行っておく必要があるのです。
5.リスクマネジメントは保育園全体を守るためのプロセス
今回は、保育園がリスクマネジメントを行うべき理由から具体的な実践方法をステップ別に解説しました。
保育園を長く運営していくためには、預かっている子どもたちの安全を確保できるリスクマネジメントはもちろん、その他にも保育園自体の運営や勤務するスタッフについてのリスクも想定し、対策することが大切です。その部分が欠けてしまっても、保育園の運営をうまく行かせるのは難しいでしょう。
したがって、リスクマネジメントを行うことは、子どもだけでなく保育園全体を守るために必要なプロセスであることを忘れないようにしてください。