「がんばる力」や「思いやりの心」など、テストでは測れない力――それが今注目されている「非認知能力」です。学力だけでなく、社会で生き抜くために必要なこの力は、実は乳幼児期からの関わりや遊びを通して育まれていきます。
この記事では、非認知能力とは何かという基本から、0歳からできる具体的な関わり方や、保育・家庭で実践できる遊びや活動のアイデアまでをわかりやすく解説します。子どもの心の土台をつくるために、今日からできることを一緒に考えてみませんか?
目次
非認知能力ってなに?まずはざっくり理解しよう
近年、保育や教育の現場で注目されているのが「非認知能力」です。これは、学力テストのように数値で測れる力ではなく、子どもが人と関わりながら生きていく上で欠かせない“こころの力”ともいえるものです。
ここでは、やる気や我慢強さ、友達との関係づくりなど、保護者や保育者が日々の関わりを通して育てたい力を詳しく見ていきます。
テストでは測れない「やる気・がまん強さ・友だち力」のこと
こうした力は、毎日の生活や遊びの中で少しずつ育まれるものであり、保育者や保護者が安心できる環境を整えることで自然と身についていきます。数値化されない力だからこそ、日々の観察と対話が重要です。
勉強の点数(IQ)と車の両輪──どちらも大切!
非認知能力は、いわば「認知能力(IQ)」と“車の両輪”のような関係にあります。文部科学省も、幼児教育の中で非認知能力を育てる重要性を強調しており、学ぶ力を支える土台として位置づけています。
実際に、自己肯定感や粘り強さを持った子どもは、学習への意欲も高くなるという研究もあります。IQがアクセルなら、非認知能力はハンドルのようなもの。両方がバランスよく育つことで、子どもはより豊かに成長していきます。
大人になったときの仕事・収入・幸せ度とも関係が深い
非認知能力の効果は、幼児期にとどまりません。米国のペリー就学前プロジェクトでは、幼少期に非認知能力を育てたグループは、40年後も高い就業率や収入を得ており、幸福度も高いという結果が出ています。
反対に、自己コントロールや協調性が十分に育っていないと、思春期や成人後に社会的な困難に直面しやすくなるといわれています。つまり、今お子さんと一緒に遊んだり、気持ちを言葉にする手伝いをしているその時間が、将来をつくっているのです。
参考:幼児教育の効果に関する代表的な研究成果 ~ペリー就学前計画
いつ伸びる?年齢ごとの育ち方
非認知能力は一度に身につくものではなく、年齢や発達段階に応じてゆっくりと育まれていく力です。子どもたちは、家庭や保育の場で経験する“うれしかったこと”“困ったこと”“乗り越えたこと”の積み重ねを通じて、少しずつ社会性や自己肯定感を伸ばしていきます。
以下では、年齢ごとに育ちやすい非認知能力の特徴と、日々の関わりのヒントをご紹介します。
0〜3歳:いっぱい甘えて遊ぶことで「自分は大丈夫!」と感じる
この時期の子どもは、心の土台をつくる大切な時期です。たくさん甘えることで「自分は愛されている」「安心していていい」と感じる経験が、後の自己肯定感につながります。
抱っこを求めたときに応えてもらったり、泣いたときに共感してもらったりといった、大人との信頼関係がベースになります。また、好奇心のおもむくままに探索する姿を温かく見守ることで、意欲や達成感を育てることができます。
まだ言葉が未熟なこの時期こそ、「感じる」「伝える」「受け止められる」といった体験が、非認知能力の芽を育てていくのです。
4〜6歳:友だちとケンカ→仲直りをくり返し協調性が育つ
幼稚園・保育園の集団生活を通じて、子どもたちは「他人と自分の違い」を意識し始めます。友だちとのケンカやトラブルは、非認知能力が大きく育つチャンスです。「どうして怒ったの?」「どうしたら仲直りできるかな?」と大人が一緒に考えることで、子どもは感情の整理や相手の気持ちに気づく力を身につけていきます。
また、ごっこ遊びや集団遊びなど、ルールのある活動を通して、順番を待つ・譲る・一緒にやるといった協調性や社会性も育まれます。この時期の小さな衝突や成功体験が、やがて人と関わる力の礎になります。
小学生:失敗してもやり直す体験で粘り強さと自信がつく
小学校に入ると、勉強やスポーツ、友人関係など、さまざまな挑戦の場面が増えます。その中で子どもたちは、成功だけでなく失敗や挫折も経験します。非認知能力が育つうえで大切なのは、「失敗してもまた頑張ってみよう」と思える心の強さです。
うまくいかなかったときに、大人が「どうすればいいかな?」と伴走してあげることで、子どもは問題解決力や忍耐力を身につけていきます。また、自分で決めたことをやり遂げる経験は、大きな自信となり、将来への意欲にもつながります。家庭や学校での声かけひとつで、ぐっと伸びる時期です。
おうちでできる!非認知能力を伸ばす3つのコツ
非認知能力は、特別な教材や難しい指導がなくても、日常生活の中でぐんぐん育てることができます。とくに家庭は、子どもが安心して挑戦できる場所。保護者とのやりとりや、ちょっとしたお手伝い、遊びの中にも「自己肯定感」「粘り強さ」「共感力」などの非認知能力を育むチャンスがたくさん隠れています。
ここでは、忙しい毎日でも取り入れやすい、3つのシンプルな実践ポイントをご紹介します。
対話をふやす──「どう思った?」と子どもの言葉を待つ
子どもの非認知能力を育てるうえで最も効果的なのが、日常の「対話」です。テレビを見たあとや遊びの途中で、「どう思った?」「楽しかった?」「どこが好きだった?」と問いかけてみてください。
すぐに答えが返ってこなくても焦らず、子どもの言葉を待つことが大切です。自分の感じたことを言葉にする体験は、「考える力」や「自己表現力」の土台をつくります。また、大人がしっかり受け止めてうなずくだけでも、子どもは「話していいんだ」と感じ、自信を深めていきます。会話の主役は子ども、という姿勢がポイントです。
小さなお手伝いで達成感──できたら笑顔でハイタッチ
「お皿を並べる」「洗濯物を渡す」「靴をそろえる」など、小さなお手伝いは、非認知能力を育てる宝庫です。大人がさりげなくお願いし、できたらしっかりリアクションを返す、これだけで、子どもは「自分は役に立てる」と実感できます。
とくに効果的なのは、できた瞬間に笑顔で「ありがとう!」「ハイタッチしよう!」とポジティブなフィードバックを返すこと。これにより、達成感や自信が育まれ、次への意欲へとつながります。完璧さを求める必要はありません。小さな「できた」を積み重ねていくことが大切です。
週末チャレンジ帳──好きなことを決めて親子で記録
自分の好きなことに取り組み、それを振り返るという習慣は、非認知能力の中でも「主体性」や「粘り強さ」を育てるうえで非常に有効です。おすすめは「週末チャレンジ帳」。たとえば、「今週はレゴで動物を作る」「縄跳びに挑戦する」など、子どもがやりたいことを一緒に決め、親子で記録していくスタイルです。
成果が出なくてもOK。「がんばったね」「来週はどうする?」と対話を通して継続することが大切です。記録に絵や写真を添えれば、振り返りの楽しみも増し、自己肯定感アップにもつながります。
園・学校で伸びる遊びと活動アイデア
保育園や小学校では、家庭では体験しにくい「集団の中で育つ力」が自然に伸びていきます。とくに非認知能力の成長には、遊びや行事、日常のやりとりといった“学びの場面”が豊富に存在しています。ここでは、園や学校生活の中で子どもたちの主体性・協調性・表現力を育む具体的な活動アイデアを年齢やシーン別にご紹介します。
ごっこ遊び・リレー・劇あそびで協力する楽しさを体験
ごっこ遊びやリレー、劇あそびといった集団活動は、子どもたちに「協力する」ことの楽しさを伝える絶好の機会です。たとえば「病院ごっこ」では医者や患者、受付などの役割を自分で選び、他の子と自然にやりとりを始めます。これは想像力を育てると同時に、他人との関わり方や順番を待つ力、言葉でのやりとりの経験になります。リレーでは「次の人に渡す」ことに集中することで、自己中心的な視点から他者意識へと変化が見られることもあります。
劇あそびでは、人前に立つドキドキと成功体験が重なり、自己表現力や自己肯定感が育まれます。このような活動を通して、子どもたちは自然に“協働すること”の価値を学び、非認知能力の核である協調性や責任感を育てていくのです。
外遊び・自然体験で「失敗→工夫→成功」のステップを味わう
園庭や公園での外遊び、山登りや水辺あそびなどの自然体験は、「うまくいかないことをどう乗り越えるか」という学びにあふれています。たとえば、泥だんごを作る遊びでも、最初はうまく固まらずに失敗しますが、「どうすれば割れないか」「もっと乾かしてから丸めよう」といった工夫を通して試行錯誤を重ねます。葉っぱでお皿を作ったり、小枝で迷路を作る活動も、完成までにさまざまな発見や改善のプロセスがあり、創造性や問題解決力を養います。こうした自然とのかかわりは、物理的な失敗が安全な範囲で許される場であり、子どもにとって「チャレンジしてみよう」という前向きな気持ちが育つ環境でもあります。成功したときの達成感は何にも代えがたく、自信と粘り強さの礎となります。
みんなの前で発表──緊張→拍手が自信と自己表現力につながる
朝の会での発表や作品発表会、学級活動でのスピーチなど、子どもが「みんなの前で話す」経験は、自己表現力と自信を高める大きなチャンスです。最初は恥ずかしさや緊張がある子も多いですが、自分の考えや体験を言葉にして伝えることに慣れると、「伝わった!」という感覚が芽生えます。
また、先生や友だちからの拍手や「すごいね」という言葉は、子どもにとって明確な“承認”となり、自己肯定感を育てるきっかけになります。こうした体験の積み重ねは、将来のプレゼンテーション能力や人前で話す力にもつながり、社会性の基礎となる非認知能力を育みます。発表のテーマを子どもの興味関心に合わせて設定することで、より主体的に取り組めるようになり、日々の活動への意欲にもつながっていきます。
子どもの成長を見守るためのポイント
非認知能力はすぐに成果が見えるものではありませんが、日々の関わりの中で確実に育まれていきます。大切なのは、子ども自身のペースで「少しずつできるようになる」ことを家族や周囲の大人が温かく見守ることです。
ここでは、家庭や園で実践しやすい、成長を応援するための工夫を3つ紹介します。
「できたことメモ」を冷蔵庫に貼って家族で共有
子どもが頑張ったことやできるようになったことを、日々メモにして冷蔵庫などに貼るだけで、家族全員で成長を実感し共有できます。「今日はひとりで靴を履けた」「お友だちにおもちゃを貸せた」など、どんな小さなことでもOKです。
目に見える形で記録を残すことで、子ども自身も「やった!」という達成感を味わいやすくなります。また、兄弟姉妹がいる家庭では、比べるのではなくそれぞれの「できた」を個別に記録していくことで、子どもたちの自尊感情を育むことにもつながります。家族で自然と「よかったね」「がんばったね」と声をかけ合う習慣が、温かい家庭環境をつくり、子どもの情緒の安定にも効果的です。
比べない・せかさない──昨日のわが子と比べて成長を喜ぶ
つい他の子と比較してしまいがちですが、非認知能力の育ちは本当に個人差が大きいため、「昨日の自分と比べてどうか?」という視点が大切です。たとえば、昨日までは癇癪を起こしていた子が、今日は泣かずに言葉で気持ちを伝えられた──この「ちょっとした変化」に気づいてあげることが、子どもの自信を育てる第一歩になります。
「なんでできないの?」ではなく、「ここまでできるようになったね」と声をかけるだけで、子どもは“見てもらえている”と感じ、次の一歩を踏み出す勇気につながります。焦らず、待つ力もまた、大人に求められる大切なサポートスキルのひとつです。
困った行動はチャンス!気持ちを聞いて一緒に解決策を考える
子どもがわがままを言ったり、反抗的な態度をとったりするのは、実は“成長の途中にあるSOS”かもしれません。その行動の裏には、「うまく言えない」「わかってほしい」という気持ちが隠れていることがよくあります。
まずは叱る前に「どうしたの?」「どんな気持ちだったの?」と聞いてみることが大切です。たとえすぐに言葉にできなくても、大人が“気持ちを聞く姿勢”を見せることで、子どもは安心して自分を表現できるようになります。
そのうえで、「次からどうしたらいいと思う?」と一緒に考えるプロセスが、問題解決力や共感力を育てる貴重な学びの場になります。困った行動は「成長のチャンス」――そう捉えることで、親子の関係もより深まります。
まとめ
非認知能力は、テストの点数では測れない「人としての土台」ともいえる力です。幼児期から小学生にかけて、日常の遊びや関わりの中でじっくり育まれるこの力は、将来の学力・人間関係・職業的成功にも深く結びついていることが、さまざまな研究で明らかになっています。
その育成には、「できたこと」に気づいて認めること、他の子と比べず昨日のわが子と向き合う姿勢、そして、困った行動の裏にある“気持ち”を丁寧に拾い上げることが何より大切です。家庭や園・学校でできる小さな工夫を積み重ねながら、子どもが「自分って大丈夫」「やってみよう」と感じられるような環境づくりをしていきましょう。
非認知能力は、決して特別な訓練で育てるものではありません。日々の関わりの中にこそ、その芽は育っています。今日のひと声・ひと工夫が、明日の子どもの「生きる力」につながります。