高齢者向けの介護施設では、自由参加型のレクリエーションが定期的に行われ、利用者が楽しむ機会が提供されています。

これらのレクリエーションは、大まかに「頭脳系レクリエーション」「体操系レクリエーション」「創作系レクリエーション」のカテゴリーに分けることができます。

特に、体操系レクリエーションは高齢者の運動不足の解消や身体機能の維持に寄与するため、非常に重要です。

そこで、この記事では高齢者向けの体操レクリエーションに焦点を当て、その効果や基本的な知識、注意点から、具体的な活動例まで詳しく説明します。

介護施設での仕事に興味がある方や、レクリエーションを計画する介護スタッフにとって、役に立つ情報が満載です。

高齢者の体操レクリエーション|取り組む効果

高齢者向けの施設では、定期的に利用者が楽しむことができるレクリエーションが開催されています。これらのイベントは単なる娯楽にとどまらず、多くの効果を期待できます。

特に、体操系のレクリエーションには以下のようなメリットがあります。

  • 運動不足の解消
  • 身体機能の維持・向上
  • 社会的な孤立感の解消
  • 生きがいづくり

厚生労働省の公式ホームページでも、高齢者向けの体操が健康に及ぼす効果について詳しく説明されています。

現役を退いた高齢者は、社会的役割が減り自分自身の生きる目標を見出しにくくなることから、社会的な関わりが少なくなり家に引きこもりがちな傾向にあります。

したがって、高齢者が身体活動量を増加させる方法としては、日常生活の中であらゆる機会を通じて外出することやボランティア、サークルなどの地域活動を積極的に実施することが効果的です。

そのうえで、積極的な健康づくり行動としての体操、ウォーキング、軽スポーツなどの運動を定期的に実施する。このような身体活動を行なうことによって、高齢者の生活の質を規定している日常生活動作能力(ADL)障害の発生を予防し、活動く的余命を延長させることが可能となります。

参照:厚生労働省「身体活動・運動」

高齢者の体操レクリエーション|行う前の準備と基礎知識

通常、体操と聞くとラジオ体操など、大きな動きを伴うものを想像しますが、高齢者向けの体操レクリエーションは、さまざまな種類の体操を柔軟に組み合わせることが一般的です。なぜなら、高齢者は個々の身体能力や健康状態が異なるため、多様な体操が必要です。

ただし、体操を行うにあたっては、適切な準備が不可欠です。これによって、レクリエーションの実施が円滑に行え、利用者全員が楽しめる環境を整えることができます。

以下では、高齢者向けの体操レクリエーションを実施する際に最低限必要な準備について紹介します。

【行う前の準備と基礎知識】

高齢者に合わせた「椅子」を用意する

高齢者向けの体操レクリエーションにおいて、不可欠なアイテムの一つが椅子です。高齢者向けの施設を利用する方々の中には、足の筋力が低下しているケースが少なくありません。

そのため、椅子がない状態での体操は、バランスを崩して転倒する危険性があるため、椅子を用意することが重要です。

さらに、高齢者の筋力や身体機能は個人差が大きいため、単に椅子に座ったままでもバランスを保つのが難しい場合もあります。特定の体操では、上半身を大きく動かす動作が含まれ、それにはバランスを必要とすることがあります。

したがって、高齢者の身体機能に合わせて、背もたれや肘掛けのある安定感のある椅子を用意することをおすすめします。

なお、体操中に利用者同士がぶつかったり、けがをしないようにするために、各利用者の椅子同士は最低でも50~60センチの間隔を保つように配置しましょう。

運動しやすくなる「音楽」を流す

高齢者向けの体操レクリエーションでは、音楽の活用が非常に重要です。音楽を取り入れることで、いくつかのポジティブな要素が得られます。

まず、音楽が流れる中で体操を行うことで、リズム感を養い、テンポよく体を動かすことができます。同時に、明るい音楽は利用者の気分を高揚させ、楽しみながら体操に取り組むことができるでしょう。

選曲には注意が必要で、軽いストレッチやクールダウンの際にはヒーリング音楽が適しています。一方、筋トレや有酸素運動の際にはアップテンポの音楽が活気を生み出します。

また、高齢者の中には聴覚に問題を抱えている方もいます。聴覚に制約のある利用者に対処するために、手拍子や身体の合図を活用して、テンポやリズム感を伝えることが大切です。

動きやすい服装を選ぶ

高齢者向けの体操レクリエーションにおいて、選ばれる服装は大切です。体操中に自由に動けることが、楽しみながら効果的な運動をする秘訣です。

したがって、動きやすく、伸縮性がある生地の服がおすすめです。この点は特に重要で、硬い素材や着づらい服装だと、体操の楽しさや効果が損なわれる可能性があります。

また、体操時には汗をかくことも考慮して、吸水速乾性の高い生地を選ぶことを忘れないでください。

さらに、紐のある靴は転倒の危険性を高めます。したがって、紐のないベルト式の介護靴を利用することを勧めます。これにより、利用者が安全かつ快適に体操を楽しむことができます。

高齢者の体操レクリエーション|注意点

高齢者向けの体操レクリエーションは、利用者の身体状態に合わせて慎重に行う必要があります。安全性を確保するために、以下に高齢者に体操を提供する際の注意点を解説していきます。

【高齢者の体操レクリエーションの注意点】

高齢者の安全や身体状態に配慮する

体操レクリエーションを行う際、事前に参加者の身体状態を入念にチェックすることが不可欠です。

  • 視覚に問題はないか
  • 聴覚に問題はないか
  • バランスを崩しやすい状態ではないか
  • 感覚障害やまひはないか
  • 安定した姿勢を保つことができるか

これらの要因は、看護師がいる施設では看護師によって評価され、それに基づいてどのような体操を実施するかを判断します。

また、立ったまま行うのか、座ったまま行うのかなど、個別のニーズに合わせたアプローチも検討しましょう。

脈拍や血圧が高い場合は参加を避ける

利用者の身体状態によって、体操レクリエーションに参加できない場合があります。

安全を確保し、リスクを最小限に抑えるために、以下の基準やチェック項目を考慮しましょう。

土肥・アンダーソンの運動基準を参考にして、参加の可否を判断することが一般的です。

土肥・アンダーソンの運動基準

判断 詳細
参加しないほうがよい 安静時の脈拍数が120回/分以上
拡張期血圧が120mmHg以上
収縮期血圧が200mmHg以上
動作時に狭心痛を起こしている
心筋梗塞の発作から1か月以内である
うっ血性心不全の所見が明らかとなっている
安静時でも動悸や息切れが見られる
途中で中止したほうがよい 中等度の呼吸困難が見られた
めまいや嘔気、狭心痛があらわれた脈拍が140回/分を超えた
100回/分以上の不整脈が見られた拡張期血圧が20mmHg以上、または収縮期血圧が40mmHg以上上昇した
途中で一時中止し、休ませながら様子をみたほうがよい 脈拍数が運動前より30%上昇した
脈拍数が120回/分を超えた
10回/分以下の不整脈が見られた
軽い息切れや動悸が見られた

これらの基準やチェック項目を遵守することで、高齢者の体操レクリエーションをより安全に行えます。

高齢者におすすめの座ってできる体操レクリエーション5選

高齢者は身体能力が制限されることが多く、体操が難しい場合もあります。体操レクリエーションを実施する際、利用者の能力に合わせて優しく指導し、できるだけ楽しい経験にしてあげることが大切です。無理なく楽しむことが目標です。

以下では、高齢者向けの基本的な体操のアイデアを5つご紹介します。これらのアイデアは、利用者全員が参加しやすく、楽しめるものです。

【体操レクリエーション5選】

グーパー運動

グーパー運動は、手の「グー」と「パー」のジェスチャーを使用した体操レクリエーションです。このレクリエーションは脳トレーニングの要素も含まれており、脳機能の活性化と認知機能の維持に寄与します。

立ったままでも座ったままでも楽しめるため、多くの利用者に適しています。特別な準備が必要なく、ただしケガを防ぐために利用者同士の適切な間隔を保つことが大切です。

<実施方法>

  1. 利用者同士が適切な間隔を保って立つか座るか選びます。
  2. 一方の手を「グー」、もう一方の手を「パー」とし、担当者が指示に従って「グー」と「パー」を入れ替えるように促します。

タオル体操

タオル体操は、タオルやバスタオルを用いた体操レクリエーションの一つです。この体操は体幹やバランス力のトレーニング、姿勢の改善、下半身のストレッチなどに効果的です。

場合によっては、首や肩の運動にも適しています。以下は、長座位を基にしたタオル体操の手順です。各工程(2以降)は、5~10回程度繰り返しましょう。

<実施方法>

  1. 利用者同士が適切な間隔を保ち、足を伸ばして長座位に座ります。
  2. 肩の後ろでタオルの両端を両手で握り、タオルを持ったまま上下に振ります。
  3. 体勢を変えずに片手だけを上げ、もう一方の腕は肩の高さまで伸ばし、上げた腕をゆっくり前方に持っていきます。
  4. タオルの両端を握ったまま、前に伸ばした両足の裏にタオルをかけ、背中の筋肉を使って上半身を後ろに倒すように引き寄せます。
  5. タオルの両端を握ったまま、前に伸ばした片方の足の裏にタオルをかけ、足をできるだけ高く上げるようにします。

棒体操

棒体操は、その名の通り棒を使った体操レクリエーションです。この体操は棒を利用することで、安定した運動が一定の範囲内で行えるため、気軽に取り組むことができます。

そのため、継続しやすく、機能訓練やリハビリテーションの一環としても用いられています。

安全性を確保するために、柔らかい素材でできた棒、例えば新聞紙やゴム製のものを使用することをおすすめします。以下は、立った状態で行う棒体操の手順です。

<実施方法>

  1. 利用者同士が適切な間隔を保ちつつ、棒を持って立ちます。
  2. 片手で棒を持ち、ゆっくりと上下および左右に棒を動かします。
  3. 棒の両端を両手で持ち、水平に保つように意識しながら棒を回します。
  4. 棒の両端をお尻の後ろで両手で持ち、水平に保つように意識しながら持ち上げます。

首・肩・腰をほぐす体操

首・肩・腰をほぐす体操は、椅子に座った状態でも簡単に実施できる体操レクリエーションです。

首や肩の体操は、嚥下機能の向上や肩こりの軽減、そして腰の体操は腰痛の予防に寄与するとされています。これらの体操は、日常の動作を円滑にこなすために非常に重要です。

<実施方法>

  1. 参加者は椅子に座ります。
  2. 椅子に座った状態から、首を上下左右にゆっくりと動かします。
  3. 前を向いた状態で、肩を前後および上下にゆっくりと動かした後、内側と外側に水平に回すように心掛けます。
  4. 座った状態から上半身だけを前に倒し、両足首を両手で掴みます。
  5. 上半身だけを使って、ゆっくりと左右に動かします。

口腔体操

口腔体操は、発語の練習や舌・口の筋肉を鍛えるレクリエーションです。この体操は、口周りの筋力を維持し、嚥下(のみ込み)機能の向上に寄与することが期待されています。

強化された筋力は、食事やコミュニケーションの質を向上させます。主に「あめんぼの詩」という五十音順の詩を使って実施します。

<「あめんぼの詩」の一部>

アメンボ赤いな あいうえお 浮き藻に子海老も泳いでる
柿の木 栗の木 かきくけこ
きつつきこつこつ 枯れけやき
ささげに巣をかけ さしすせそ
その魚浅瀬でさしました
立ちましょラッパで たちつてと
トテトテタッタと飛び立った
ナメクジのろのろ なにぬねの
納戸にぬめってなに粘る

「あめんぼの詩」は長いため、最初は利用者に全体を練習させ、その後、クイズ形式で一音ずつ発声するなど工夫が必要です。

この活動は記憶力や思考力を鍛え、認知症予防にも役立ちます。バリエーションとして「パタカラ体操」などもあり、飽きさせずに楽しませることができます。

特に、発語が難しい場合は、焦らずゆっくりとサポートしましょう。

口腔体操は、舌や口の筋力を向上させるため、利用者にとって有益な活動です。

高齢者の体操レクリエーション|まとめ

高齢者が体操レクリエーションに参加することには、運動不足の解消、身体機能の維持、孤立感の軽減、生きがいの向上など、4つの重要なメリットがあります。

これらの要素は、高齢者の健康と幸福に不可欠な役割を果たし、介護施設においては非常に重要です。

さらに、体操レクリエーションには多くのバリエーションが存在します。

高齢者の個別の身体状態に応じて、最適な種類を選択することをおすすめします。

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