ジェノグラムやエコマップは、人間関係を一目で把握するために大変便利なツールです。主に介護業界で使用されてきましたが、近年では保育園でも「子どもの家庭環境を理解する」といった名目で活用され始めています。

複雑な家庭環境を抱える子どもや、支援を必要としている家庭は多く存在します。ジェノグラムやエコマップの導入に向けて、書き方や活用方法を知りたいと考える保育士も多いのではないでしょうか。そこで今回は、ジェノグラムやエコマップの書き方と活用方法について解説します。

1 ジェノグラムやエコマップの概要

保育園でも活用が広まっているジェノグラムとエコマップですが、どのようなツールなのでしょうか。その概要について詳しく解説します。

1-1 保育園で使用するジェノグラムとは

ジェノグラムとは、家族の関係性を図に集約したもののことを指します。保育園で使用する場合は、対象となる子どもを中心として親族の関係性を記号で表します。ジェノグラムを一目見ただけで、子どもを取り巻く家庭環境を把握できるのが特徴です。

ジェノグラムからは、子どもに関する課題の抽出や支援のポイントを読み取ることができます。書き方にはルールがありますが、地域や専門機関によって記載方法が異なる場合があります。

1-2 保育園で使用するエコマップとは

エコマップとは、家庭内の問題や生活状況、社会資源の情報を図式化したものです。ジェノグラムと似ていますが、エコマップは保育現場で知り得た情報を書き加え、より詳しい内情を記した図式といえるでしょう。

例えば、子どものかかりつけ医や保育園で仲良くしている友達の名前、行っている支援内容など細かいところまで記載します。家庭環境や親族との関係性が変化するごとに追記して、常に最新の情報を保管しておく必要があります。正しい管理を行うことで、対象児が進級してもエコマップを見ながら漏れなく引継ぎが行えます。

2 ジェノグラムやエコマップの書き方

ジェノグラムやエコマップは、図形を用いて家族の人間関係を図式化します。パソコンでも手書きでも作成可能なので、作成・管理がしやすい方法で行いましょう。ここからは、ジェノグラムやエコマップの書き方を分かりやすく解説します。

2-1 ジェノグラムで使われる記号や書き方

ジェノグラムでは、丸や四角、三角といった基本の図形を組み合わせ、以下のように表現します。

  • 女性(女児)は「丸」
  • 男性(男児)は「四角」
  • 性別が不明の場合は「三角」
  • 対象の子どもは「二重のマーク」
  • 年齢は「図形の中」または「図形の下」
  • 死亡している場合は「黒塗り」または「図形内にバツ印」
  • 妊娠している場合は「丸の中に三角」

上記のように表現したものを、婚姻関係や親子関係で以下のように繋いでいきます。

  • 別居している場合は「斜線1本」
  • 離婚している場合は「斜線2本」
  • 同棲している場合は「波線で繋ぐ」
  • 再婚している場合は「横に繋げる」
  • 対象の子どもと同居している家族を線で囲む

※地域や団体によって記載方法が異なる場合があります

上記のようなルールに沿って作成したジェノグラムの例が、以下の通りです。

上記のジェノグラムからは、このような家庭環境が読み取れます。

  • 対象児の母は1度離婚している
  • 対象児は元夫の子どもであり、現在は同居していない
  • 対象児の母は再婚し、対象児と共に新しい夫と同居している
  • 対象児の母と新しい夫との間に2人の子どもが生まれ、現在は5人で暮らしている
  • 対象児の母方の祖母はすでに死亡しており、祖父は入院している

このように、ジェノグラムを使用することで、言葉では伝わりにくい家族構成を一目で説明できます。ジェノグラムには年齢や性別の他にも、健康状態や居住地を記載しておくと、家庭内の課題抽出に有効です。

2-2 エコマップで使われる記号や書き方

次にエコマップの記号や書き方を解説します。エコマップには、子どもと関わっていく中で得た情報や、支援の内容を追記していきます。以下のように、線の種類で親族との関係性を表現するのが特徴です。

上記のエコマップからは。このような家庭環境が読み取れます。

  • 対象児は実母と継父、その2人の間に生まれた弟と妹の5人で同居している
  • 対象児は実父と別居しているが、月に1度面会している
  • 対象児は継父との関係がうまく構築できていない
  • 対象児は同じ保育園に通う義弟に苦手意識を持っており、ストレスを感じている
  • A担任は対象児に親身になって働きかけを行っている
  • 実母は祖父の入院により病院通いが多く疲弊している

つまり対象児は、実母が病院通いで不在がちという環境におかれていることが推測されます。また、一緒に暮らす継父との関係が構築できていないうえに、苦手意識を持っている弟との生活にストレスを感じていると考えられます。

このようにエコマップは、対象児に影響を与える事柄を読み取りやすいように作成します。

2-3 ジェノグラムやエコマップを書くときのポイント

ジェノグラムやエコマップを書くときは、必ず記入した日付を加えましょう。情報が古いまま保管されている場合は、現在の家庭状況を再度確認する必要があります。とはいえ、子どもを取り巻く環境は日々変化します。支援内容を漏れなく記載し、いつでも把握できるようにしておきましょう。

また、保育園に送迎する予定のある人物には印をつけておくなどの配慮が必要です。複雑な家庭環境が背景にある子どもは、送迎者が複数存在する場合があります。「元夫から連絡があっても取り合わないで欲しい」「義母からの虐待があるので引き渡さないで欲しい」といったイレギュラーな対応が必要な子どもは少なくありません。万が一のトラブルを避けるためにも、職員同士で情報共有できるよう、エコマップに記載しておきましょう。

また、ジェノグラムやエコマップは個人情報です。場合によっては、連絡先を記載することもあるので、取り扱いには十分注意しましょう。

3 ジェノグラムやエコマップを家庭支援に活用する方法

作成したジェノグラムやエコマップは、子どもや保護者の悩みや困り事を把握する手段となります。対象児が置かれる家庭状況を客観的に理解することで、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。ここでは、ジェノグラムやエコマップを有効活用する方法を解説します。

3-1 保護者との信頼関係を深める

ジェノグラムやエコマップの作成には、保護者との信頼関係の構築が必要不可欠です。保育士が保護者にとって「なんでも相談できる存在」にならなければ、家庭の状況を正しく聞き出すことができません。

保護者との関わりを深めるためには、日頃のコミュニケーションを大切にする必要があります。送迎時のコミュニケーションを大切にし、信頼してもらえるような温かい対応を心掛けましょう。

3-2 対象の子どもの特徴や家庭環境を知る

子どもの特徴や家庭環境を理解していなければ、正しいジェノグラムやエコマップを作成することができません。子どもの発言や情緒に気を配り、SOSを見逃さないことが大切です。円滑な支援のためにも、対象児の様子をしっかり観察しましょう。

また、エコマップは虐待などの家庭の問題だけでなく、発育上の問題について原因を発見するきっかけにもなります。普段の様子から得られた情報は、こまめにエコマップに記載しましょう。例えば、関わりの強いお友達の名前や、ストレスを感じているタイミングなど、対象児の傾向を細かく記載するのがポイントです。

3-3 職員全体や関係機関と情報を共有する

作成したジェノグラムやエコマップを、特定の保育士しか把握していないとなれば、支援にうまく活用することができません。

情報を知らされていないパート職員が、対象児と深く関わっているということもあるでしょう。問題がなさそうな家庭でも、早朝の受け入れ担当のパート保育士が親子関係の様子に疑問を抱いていることもあります。情報は、職員全体で把握しておきましょう。

また、虐待や劣悪な家庭環境には、保育園だけでなく関係機関の協力を仰ぐ必要があります。問題のある家庭の状況を簡潔に報告できるよう、ジェノグラムやエコマップには最新の情報を記載して保管しておきましょう。

4 まとめ

今回は、ジェノグラムやエコマップの書き方や活用方法について解説しました。家庭の相関図を事実に基づき図に表すジェノグラムと、親族との関係性や子どもの周囲の状況を詳しく記載するエコマップ。どちらも「家族関係を整理し支援に繋げる」という役割を持っています。

問題のない家庭に見えても、どこかに複雑な事情を抱えているという家庭も少なくありません。子どもや保護者からのSOSを見逃すことがないよう、ジェノグラムやエコマップを活用してみてはいかがでしょうか。

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