徐々に多様化が進んできた日本では、インクルーシブ教育を保育に取り入れることも推奨されてきています。しかし、インクルーシブ保育という名称自体まだ浸透していないため、どんな保育なのか知らない保育士の方もいるでしょう。

そこで今回は、インクルーシブ保育とはどのような教育なのかという点からインクルーシブ保育を取り入れるべき理由まで解説します。

また、このインクルーシブ保育はかなり重要な教育方法である一方で、課題となる点もありますので導入する際のハードルも合わせて紹介しますので、これからインクルーシブ保育を取り入れる予定のある方はぜひ参考にしていただきたい内容です。

1.インクルーシブ保育は多様性を重んじる教育

インクルーシブ保育は、端的にまとめると「子ども同士の多様性を尊重しながら教育する方法」です。つまり、子ども同士の年齢や国籍、障害などの違いすべてを受け入れ、すべての子どもたちを同じ場所で同じように教育することを指します。

なぜ、このインクルーシブ保育が注目されているのかというと、2016年から2030年の15年間で実現するべき「持続可能な開発目標=SDGs」が掲げられたからです。また、日本はグローバル化がかなり進んできており、厚生労働省が発表している平成29年までの在留外国人の割合は以下のように示されています。

引用:外国人労働者の現状|厚生労働省

このように日本における外国人労働者を含めた在日外国人の割合は、日本全国の人口に対して「約2%」にまで増加しているのです。

したがって、これからさらに多様化が進んでいくことが予測される日本では、インクルーシブ保育のように他人の個性や違いを認め合えるような教育を取り入れることが重要になってくるでしょう。

2.インクルーシブ保育を取り入れるべき3つの理由

インクルーシブ保育を取り入れるべき大きな理由としては、以下の3つがあります。

  • 全世界がSDGsの実現を目指している
  • 互いの「個性」を理解するきっかけを与えられる
  • 相手を認める思いやりの心を育てられる

それでは、上記の理由についてもう少し掘り下げて解説します。

2-1.全世界がSDGsの実現を目指している

1つめの理由は、先ほども少し述べましたが日本を含め国連加盟193ヵ国が2016年から2030年までの15年間でSDGsの実現を掲げているからです。

SDGsでは、国だけでなく人と人との格差や差別を改善させることも目標の一つとして挙げられています。この目標は子どもたちがお互いの個性や違いを認めることの大切さを認識することがとても重要なので、インクルーシブ保育を取り入れることで自然と多様性について教育できるようになるでしょう。

2-2.お互いの「個性」を理解するきっかけを与えられる

2つめの理由は、インクルーシブ保育によって子ども同士が関わる機会を増やせるため、お互いの違いや個性を理解するきっかけを与えることができます。

例えば、世の中にある「いじめ」や「差別」の問題はすべてお互いの違いや個性を認めることができないことで起こってしまいます。したがって、幼少の頃から年齢・国籍・境遇が異なる子ども同士で遊び、同じ時間を過ごすことで「相手を認める力」を身につけることができるようになるのです。

2-3.相手を認める思いやりの心を育てられる

3つめの理由は、相手を認め思いやりのある心を育てることができる点です。

先ほど「相手を認める力」を身につけられると述べましたが、それは思いやりのある心を育てることに繋がります。自分と相手の違いを受け入れて、どのように接するべきかを保育士が一緒にサポートしてあげることで、相手の立場を考えながら行動できるようになるでしょう。

とくに保育園は、単に子どもたちを預かるだけの場ではなく、子どもたちが正しく成長するためのサポートをするべき場所でもあります。したがって、他者を認め思いやる気持ちを育てられるインクルーシブ保育は、かなり重要な教育方法と言えるでしょう。

3.インクルーシブ保育を取り入れることの課題

ここまででインクルーシブ保育を取り入れるべき理由として、メリットになる部分を紹介しましたが、インクルーシブ保育がまだ日本に浸透していないのは大きな課題が残っているからです。

もちろん今後は、インクルーシブ保育を取り入れる保育園も増えてくることが予測されますが、魅力的な部分だけでなく課題となる点にもしっかり目を向けていくことが大切になります。

とくにインクルーシブ保育を取り入れることで浮き彫りになる課題は、以下の3つです。

3-1.子どもにとって刺激が多すぎる

インクルーシブ保育では、前述しているように年齢や国籍、障害の有無など子ども一人ひとりによって境遇はさまざまです。そのため、一般的な保育園よりもたくさんの貴重な経験ができる一方で、刺激が多すぎてしまいトラブルへ発展する懸念もあります。

例えば、保育園児に通う年齢の子どもたちの場合、子どもによって外部から受け取る刺激の量や質が異なるため成長する速さに個人差が出てきます。この少しの差を感じてしまう前に保育士が状況を把握してサポートしてく必要があるのです。

とくに年長さんへ近づくと同時にさまざまな感情が芽生えてくるため、相手との差を感じてしまうと感情が不安定になってしまうこともあります。したがって、インクルーシブ保育は子どもたちに多種多様な刺激を与えられ成長を促せますが、保育士が子ども一人ひとりの状況を細かく把握してトラブルにならないようにすることも重要です。

このように子どもたちの状況を把握しながら保育士も動かないといけなくなるため、子どもと保育士、さらには保護者への負担もこれまで以上に大きくなるという課題があります。

3-2.他人と無意識に比べてしまう可能性もある

先ほど述べたようにインクルーシブ保育では、さまざまな境遇の子どもたちが一つの環境で過ごします。そのため、相手のことを理解できるようになってくると無意識に自分と比較してしまうこともあるのです。

例えば、「〇〇ちゃんは上手にお絵描きができるのに、自分はあまりうまくできない」のように考えてしまう子どもいます。つまり、子どもであっても無意識に自分と相手の状況を考えて比較してしまうことがあるのです。

このような状況が続いてしまうと結果的に「相手への劣等感」へと繋がってしまい、他人を認める前に自分自身が認められなくなっています。そのため、保育士は子どもが誤った解釈をしている場合、他人と比較をするのではなく自分自身がやりたいこと、できることに目を向けられるような言葉をかけてあげる必要があるでしょう。

3-3.保育士にも高い専門知識が要求される

インクルーシブ保育は、子どもにとって一般的には体験することのできない刺激と考え方を育てるためにはかなり有効な方法です。

しかし、ここまで読んでいただいてわかるように子どもたちをうまくサポートするためには、かなり高度な専門知識と対応能力が要求されます。つまり、インクルーシブ教育を導入することはとても有効でメリットが多いですが、それ以上に保育士への負担なども増えるため導入するハードルが上がっていることも事実です。

ですが、インクルーシブ保育は導入こそハードルが高く難しいと感じるかもしれませんが、一般的な保育以上にさまざまな経験ができるので保育士としてスキルアップするにはかなり効果的でしょう。

4.インクルーシブ保育は段階的に導入するの効果的

インクルーシブ保育をいきなり導入しようとすると、導入コストだけでなく子どもや保護者そして保育士への負担がかなり大きくなってしまいます。
したがって、いきなり全力で取り組むのではなく段階的に導入するほうが負担も少なく効果的でしょう。

そこで、インクルーシブ保育を段階的に導入する具体例として2つほどご紹介しますので、ぜひインクルーシブ保育を取り入れる際は参考にしてみてください。

4-1.具体例①SDGsをテーマにした絵本を読み聞かせる

今ではSDGsを題材とした絵本が徐々に増えてきています。したがって、他人との違いや個性を認めることの大切さを絵本から学べるような環境を作ってあげるといいでしょう。

また、SDGsに関連する絵本を読み聞かせることで、子どもだけでなく保育士も正しい知識と認識で子どもたちに教えることができます。さらに絵本を読み聞かせるだけでなく、読み聞かせた内容から子どもたちがどう感じたのか簡単な質問をするのもおすすめです。

SDGsのことを知ってもらうための読み聞かせというよりも、子どもたちが内容を聞いてどのように感じるのかを保育士がサポートしてあげてください。

4-2.具体例②子ども同士で良いところ探しをさせる

ゲームや遊びの一つとして「子ども同士の良いところ探し」をさせることもおすすめです。良いところ探しをゲーム感覚で行うことで、子どもたちは抵抗なく相手の良いところを探します。

このように相手の良いところを意識的に探させることによって、相手との違いや個性を認めることのきっかけに繋げることができるでしょう。また、普段一緒に遊ばない子どもたちが良いところを言い合うことで仲良くなり、保育園内での孤立も防ぐことができるので、ぜひ実践してみてください。

5.まとめ:インクルーシブ保育は保育士が意識するところからが重要

今回はインクルーシブ保育を導入するべき理由から導入するための大きな課題に注目して解説をしました。

本文を読んでいただいてもわかるようにインクルーシブ保育は、かなり大きなメリットがあります。しかし、その一方で子どもたちや保護者、さらには保育士への負担が大きくなることも事実です。したがって、これまでインクルーシブ保育を導入していない保育園がいきなり導入することはかなり難しいでしょう。

そこで意識していただきたいのが、本格的にインクルーシブ保育を導入するのではなく、まず保育士が意識するということです。保育士が意識的にインクルーシブ保育やSDGsを学び、実践していくことで自然と子どもたちにも重要性を伝えることができます。

まずは、保育士や保育園側から徐々に意識を変えながら実践してみてください。

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