平成28年(2016)4月から、政府は日本経済団体連合会や日本商工会議所等と連携して、企業向け助成制度である「企業主導型保育事業」をスタートさせました。

認可外保育所という位置づけですが、条件を満たせば認可保育所と同等の整備費や運営費の助成を受けることができます。

この記事では、企業主導型保育事業とはどのような制度なのか、企業主導型保育事業を行う4つのメリットや3つの設置タイプ、設置基準にはどのようなものがあるのかを企業向けにわかりやすく解説していきます。

企業主導型保育事業とは?

企業主導型保育事業とは、企業が自社で働く従業員のために保育所の設置・運営を行う場合、政府が施設の整備費や運営費等の助成金を出して支援するという制度です。

認可保育所では「保育を必要とする乳幼児を保護者のもとから通わせて保育をする」ことが目的となりますが、企業主導型保育事業では「従業員の多様な働き方に柔軟に対応する保育サービスの拡大を行う」ことや「保育所待機児童の解消」を目的としています。

夜間勤務や短時間勤務など個々の勤務状態に合わせて保育サービスが受けられる保育施設を設置・運営することで、多様な働き方に対応できるようになり、従業員の離職率を減らすというねらいがあります。

整備費、運営費についての助成金を受けるのであれば、「子ども・子育て拠出金を負担している事業主である」ことに加え、下記の①〜③のいずれかの要件を満たすことが主な要件になっています。

  • ①従業員向けに新しく保育施設を設置する場合
  • ②既存施設で新しく定員を増やす場合
  • ③既存施設の空き定員を他の企業向けに活用する場合

※整備費、運営費の助成のほか、固定資産税や都市計画税などが優遇される場合があります。

企業型保育事業を行う4つのメリット

企業型保育事業を行うメリットにはどのようなものがあるでしょうか?従業員や地域枠の利用者からの視点ではなく、企業側からみたメリットについては以下の通りです。

女性の活躍を推進できる

女性は、人生におけるライフスタイルの中で、結婚・出産・育児といった状況におかれることにより、これまで同様に働き続けることが難しくなります。

産休・育休を利用し、いざ復帰の日が決まっても、保育園の空き状況によっては子どもを預けることができないために育児休暇の延長や、中には退職せざるを得ないという人も珍しくありません。

特に認可保育園では「保育の必要性」が認められない短時間勤務や週に2日だけ働くといった場合でも、企業主導型保育事業の保育施設であれば子どもを預けることが可能なため、定着率の向上が見込まれます。

優秀な人材を採用・確保できる

単に従業員が働きやすい環境を整えるだけでなく、仕事と家庭、プライベートとの両立を図るために「ワーク・ライフ・バランス」を考慮した企業は、働く者にとって魅力的です。

魅力的な企業にはさまざまな人材が集まるため、より優秀な人材を採用・確保する機会が増えます。

地域貢献になる

企業主導型保育事業では、保育施設の定員が従業員の子どもを預かる「従業員枠」に加え、地域の子どもを預かる「地域枠」を設けることが可能です。(地域枠の設定は全定員の1/2以内とすること)

地域の子どもを受け入れることは保育所待機児童解消にも繋がり、大きな地域貢献となり得るでしょう。また、従業員枠で定員が埋まらなかった場合でも、地域枠を最大人数まで募集することで、施設運営の安定を図ることができることは、企業にとってもメリットといえます。

企業イメージが向上する

雇用する側としてだけでなく、従業員の視点に立って物事をみることができる企業、子育てに理解のある企業としてのイメージアップに繋がります。

企業のイメージアップを図ることができれば「ここで働きたい」と希望する者が増え、より雇用の幅が広がり、良い人材に巡り合えるチャンスが増していくことが期待できるでしょう。

企業主導型保育事業の設置は3タイプ

企業主導型保育事業では、ニーズに応じて3タイプの設置が可能です。利用契約する企業は、子ども・子育て拠出金を負担している一般事業主(厚生年金の適用事業所等)であることが条件になります。

事業主が拠出金を負担していない場合には、地域枠を利用することが可能です。地域枠で入所を希望する場合は、自治体を通さずに直接申し込みをします。また、利用契約における形式は自由ですが、利用する企業の利用定員数と費用負担を明らかにする必要があります。

①単独設置型

単独の企業Aが保育施設を設置・利用するもので、Aの従業員枠と地域枠で構成されます。

地域枠の設定は独自の判断に任されているため、従業員枠で定員になった場合には地域枠を設けないということも可能です。

②共同設置・共同利用型

1つの企業または複数の企業が設置した施設を、複数の企業で共同利用するものです。

パターン1:単独設置・共同利用の場合
A社が単独で保育施設を設置し、B社と利用契約を締結します。従業員枠の利用はA社とB社の従業員が対象となります。任意で地域枠を設けることも可能です。

パターン2:共同設置・共同利用の場合
A社とB社の共同設置・共同利用。従業員枠の利用はA社とB社の従業員が対象となります。任意で地域枠を設けることも可能です。

③保育事業者設置型

保育事業者であるC社が、A社、B社と利用契約を締結します。従業員枠の利用は、A社、B社、C社が対象となります。任意で地域枠を設けることも可能です。
※この場合のC社は、事業の適正管理の観点から再委託は認められていません。

複数の企業の従業員が保育施設を利用する場合、利用する全ての企業が共同利用に必要な契約を締結しなければなりません。また、従業員枠、地域枠ともに保護者のいずれもが就労要件等を満たす必要があります。

企業主導型保育事業には2つの設置基準がある

企業主導型保育事業の助成を受けるためには、以下の2つの設置基準を満たす必要があります。この基準は、従業員の子どもを預かる保育施設として、保育の質を確保するために設けられたものです。

職員配置基準

子どもの年齢と人数に応じて配置しなければいけない保育従事者の数は以下の通りです。

子どもの年齢 子どもの数 保育従事者の数 加配数
0歳児 3人 1人 +1人以上
1~2歳児 6人 1人
3歳児 20人 1人
4~5歳児 30人 1人

また、配置する保育従事者のうち、半数以上は保育士免許取得者でなければいけません。保育士以外の職員であっても、保育に必要な知識が必要となることから、地方自治体や児童育成協会が行う「子育て支援員研修」を修了する必要があります。

設備等の基準

施設内設備等については、児童福祉法第三十四条の十六第二項の規定に基づき定められた「家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準」と「認可外保育施設指導監督基準」の遵守が求められます。

その他(子どもの安全に関する事項)

保育を実施する際には、保育所保育指針を踏まえ「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」に基づいて行います。

万が一、事故が発生した場合には、都道府県及び児童育成協会への報告が必要となります。また、通所している園児が保育施設管理下において、負傷・疾病・障害・死亡の場合に保護者等に給付を行うために「賠償責任保険」と「傷害損害保険」に加入しなければなりません。

傷害損害保険は(独)日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度と給付水準が同等の保険加入が必要です。つまり、施設側の責任の有無に関わらず給付の対象になり、低い掛け金で手厚い給付が行われます。

まとめ

企業主導型保育事業は、従業員がより働きやすくなる環境を整えるだけでなく、施設整備費や運営費を助成してもらうことができる支援制度などが組み込まれているため、企業にとっても多くのメリットがあります。

さらに1つの企業のみで設置・運営する「単独設置型」だけでなく、複数の企業で設置・利用する「共同設置・共同利用型」、保育事業者に委託して行う「保育事業者設置型」では、複数の企業で運営するため、安定化を図り、運営リスクを軽減できるという点では、取り組みのハードルはそれほど高くはありません。

従業員や地域の保育ニーズがどれだけあるのかを把握し、企業主導型保育事業を取り入れてみることを検討してみてはいかがでしょうか?

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