保育士は、子どもの発達段階に合わせた保育活動を計画・実施する重要な役割を担っています。子ども達の成長を段階に合わせてサポートするためには「保育所保育指針」に基づいて指導計画を作成する必要があります。

保育士が指導計画を作成するにあたり、重要になるのが保育所保育指針の「5領域」です。
とはいえ、保育の学校で5領域を学んでも保育にどう活かすべきか具体的なイメージを持てない保育士も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、保育所保育指針のなかでも最も重要な「5領域」について解説します。また、5領域を活かした年齢別の活動例も紹介しますので参考にしてみてください。

1 保育所保育指針で定められた5領域とは

保育所保育指針とは、保育内容の基本原則として厚生労働省が示したものです。保育園では、保育所保育指針を元にそれぞれの保育理念や保育計画を考えます。

保育所保育指針は、1965年に制定されて以来、その内容を時代に合ったものへと繰り返し改定されてきました。2018年にも改定がなされ、認定こども園の開設に応じ「保育園でも教育をおこなう」ことが明確に示されました。

保育所保育指針によって示されている「保育の目標」を達成するため、子どもの育ちのねらいを具体的に示したものとして5領域が設けられています。5領域とは、子どもの発達を「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5つに分類したものです。保育士は、子どもの健やかな成長のため、この5領域に基づいて指導計画を作成します。

参考:保育関係(厚生労働省)

2 保育「5領域」のねらいと内容

保育所保育指針によって示されている5領域は、乳幼児期に必要な基礎の力が5つの領域に分類されており、子どもの心身の発達を総合的に促す役割を担っています。

5領域にはそれぞれ「ねらい」と「内容」が記載されています。5領域のねらいとは、保育園に在園している間に育って欲しい姿を具体的にしたもので、そのねらいを達成するための指導事項が内容として記されています。

ここからは、5領域それぞれに、どのようなねらいと内容が設定されているのか詳しく見ていきましょう。

2-1 【健康】心身の健康に関する領域

保育所保育指針の5領域で定められる「健康の領域」では、子ども達が自らの体や健康に関心を持ち、心身の機能を向上させることをねらいとしています。

心身の健康に関する領域「健康」
ねらい ・明るくのびのび生活し、体を動かすことを楽しむ
・体を十分に動かし、さまざまな動きをしようとする
・健康で安全な生活習慣に気づき、自分でしてみようとする気持ちが育つ
内容 ・保育士等の愛情を持った対応で、安定感をもって生活する
・食事や午睡、遊び、休息など、保育所での生活のリズムが形成される
・走る、跳ぶ、登る、押す、引っ張るなど全身を使う遊びを楽しむ
・さまざまな食材に慣れ、ゆったりとした中で食事やおやつを楽しむ
・身の回りを清潔に保つ心地よさを感じ、その習慣が徐々に身に付く
・保育士等の介助を受けながら、自分で衣類の着脱をしようとする
・トイレでの排泄に慣れ自分でできるようになる

引用:保育所保育指針解説 平成30年2月(厚生労働省)

2-2 【人間関係】人との関わりに関する領域

保育所保育指針の5領域で定められる「人間関係の領域」では、お友達や保育士などと親しみ、自立心を育てることがねらいとされています。

人との関わりに関する領域「人間関係」
ねらい ・保育所での生活を楽しみ身近な人と関わる心地よさを感じる
・まわりのお友達への興味や関心が高まり、自ら関わりをもとうとする
・保育所の生活に慣れ、きまりの大切さに気付く
内容 ・保育士等やお友達との安定した関係の中で、一緒に過ごす心地よさを感じる
・受容的で応答的な関わりのなかで、欲求を満たし安定感をもって過ごす
・身の回りに様々な人がいることに気付き徐々にお友達と関わって遊ぶ
・保育士等の仲立ちにより、他の子どもとの関わり方を少しずつ身につける
・保育所の生活に慣れ、きまりがあることやその大切さに気付く
・年長児や保育士等を真似したりごっこ遊びを楽しんだりする。

引用:保育所保育指針解説 平成30年2月(厚生労働省)

2-3 【環境】身近な環境との関わりに関する領域

保育所保育指針の5領域で定められる「環境の領域」には、身近な周囲の環境に好奇心や探求心を持って関わり、感性を豊かにするねらいがあります。

身近な環境との関する領域「環境」
ねらい ・身近な環境に親しみ触れ合うなかで、様々なものに興味や関心をもつ
・様々なものとの関わりで、発見を楽しみ考えようとする
・見る、聞く、触るなどの経験から感覚の働きを豊かにする
内容 ・安全で活動しやすい環境で探索活動等をおこない、見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わうなどの感覚の働きを豊かにする
・おもちゃ、絵本、遊具などに興味をもち、それらを使った遊びを楽しむ
・身の回りの物に触れ、形、色、大きさ、量などの物の性質や仕組みに気付く
・自分の物と人の物の区別や、場所的感覚など環境を捉える感覚が育つ
・身近な動植物などの生き物の存在に気付き、親しみをもつ
・近隣の生活や季節の行事などに興味や関心をもつ

引用:保育所保育指針解説 平成30年2月(厚生労働省)

2-4 【言葉】言葉の獲得に関する領域

保育所保育指針の5領域で定められる「言葉の領域」には、自分の言葉で気持ちを表現したり、相手の言葉を聞こうとする意欲や態度を育てるねらいがあります。

言葉の獲得に関する領域「言葉」
ねらい ・言葉で表現したり遊んだりする楽しさを感じる

・人の言葉や話などを聞き、自分で思ったことを伝えようとする

絵本や物語に親しむとともに、言葉のやり取りを通じて身近な人と気持ちを通わせる

内容 ・保育士等の応答的な関わりや話しかけにより、自ら言葉を使おうとする
・生活に必要な簡単な言葉に気付き、聞き分けようとする
・周囲の人に親しみをもって、日常の挨拶に応じる
・絵本や紙芝居を楽しみ、簡単な言葉を繰り返したり、模倣をしたりして遊ぶ
・保育士等とごっこ遊びをする中で、言葉のやり取りを楽しむ
・保育士等の仲立ちを受けながら、生活や遊びの中でお友達との言葉のやり取りを楽しむ
・保育士等やお友達の言葉や話に興味や関心をもって、聞いたり話したりする

引用:保育所保育指針解説 平成30年2月(厚生労働省)

2-6 【表現】感性と表現に関する領域

保育所保育指針の5領域で定められる「表現の領域」では、自分の感じたことや考えを表現する力や創造性を豊かにすることをねらいとしています。

感性と表現に関する領域「表現」
ねらい ・身体のそれぞれの感覚経験を豊かにし、様々な感覚を味わう
・感じたことや考えたことなどを自分なりに表現しようとする
・生活や遊びの様々な体験を通じてイメージや感性が豊かになる
内容 ・水、砂、土、紙、粘土などの様々な素材に触れて楽しむ
・音楽やリズムに合わせた体の動きを楽しむ
・様々な音、形、色、手触り、動き、味、香りなどに気付いたり、感じたりして楽しむ
・歌を歌ったり、簡単な手遊びや全身を使う遊びを楽しんだりする
・保育士等からの話や生活や遊びの中での出来事を通して、イメージを豊かにする
・生活や遊びの中で、興味を持つことや経験などを自分なりに表現する

引用:保育所保育指針解説 平成30年2月(厚生労働省)

3 年齢別!保育の5領域を意識した保育の実例

前項では、保育の5領域に関するねらいや内容を紹介しました。しかし、実際に5領域を保育活動に取り入れた指導計画を作成することは安易ではありません。そこでここからは、年齢別に5領域を意識した保育の実例を紹介します。

3-1 【0歳児】保育の5領域を活かした活動

0歳児は、ハイハイやつかまり立ち、伝い歩きなど体の発達が目まぐるしい時期です。そのため、体を動かすことを思う存分楽しめるよう、危険のない環境構成をおこない「健康」を意識します。また、オムツ交換時やミルクの授乳時に、声掛けや十分なスキンシップを図ることで「人間関係」や「言葉」「表現」といった領域に意識しましょう。とくに、触れ合い遊びは0歳児への体へ感覚刺激や信頼関係の構築にピッタリです。

0歳児の活動例

  • ラララぞうきん
  • 上がり目下がり目
  • いっぽんばし
  • ベランダや窓際での日光浴

3-2 【1歳児】保育の5領域を活かした活動

1歳児は、自分の足で歩きたがったり、靴やズボンの着脱にチャレンジしたりする姿が見られます。そのようなチャレンジは「健康」や「表現」の基礎につながります。また、少しずつ言葉で気持ちを伝えられるようになるため、気持ちを代弁することで「言葉」や「人間関係」を意識します。1歳児にはとくに、五感を意識したさまざまな環境に触れる活動が求められます。

1歳児の活動例

  • お散歩
  • おままごと
  • マット遊び
  • 絵本の読み聞かせ

3-3 【2歳児】保育の5領域を活かした活動

2歳児になれば、ボールを投げたりジャンプしたりといった運動能力の向上が見られます。そのほか、トイレトレーニングをしたり、さまざまな食材に触れ合うことで「健康」を意識します。また、感じたことを言葉で伝えたり、製作を通して好きな色や形を楽しみ「言葉」や「表現」の基礎を育てます。2歳児はとくに、言葉を通したやりとりを大切にする活動を取り入れます。

2歳児の活動例

  • 砂遊び
  • おままごと
  • リトミック
  • 自由な製作遊び
  • プールや雪遊びなどの季節の自然遊び

3-4 【3歳児】保育の5領域を活かした活動

3歳児は、対保育士だけでなく子ども同士での関わりを深めていくなかで「人間関係」や「言葉」「表現」といった発達を促します。生活リズムを整え、気温に合わせて自ら服装を調節したり、自分の体調を言葉にして伝える力もついてきます。3歳児はとくに、ごっこ遊びや自然物への触れ合いから、気持ちを表現する活動を重視します。

3歳児の活動例

  • お店屋さんごっこ
  • 動植物の観察や飼育
  • 粘土や絵の具を使った製作
  • 簡単なルールのある遊び

3-5 【4歳児】保育の5領域を活かした活動

4歳児は、少しずつ自身の健康に目を向けられるようになります。手洗いや疲れたときの休息を意識して自らの「健康」を守ります。また、複雑な体の動きに合わせて、ルールのある遊びを好むようになります。そのため4歳児には、お友達と一緒に体を動かす遊びを通して「健康」「人間関係」「言葉」「表現」などを意識できる活動を取り入れます。

4歳児の活動例

  • 鬼ごっこ
  • ドッジボール
  • フルーツバスケット
  • 続きのある製作

3-6 【5歳児】保育の5領域を活かした活動

5歳児になると、お友達との関わりを大切にしたり競争心が芽生えたりする時期です。難しい運動にチャレンジしたり、簡単な数や文字のお勉強を取り入れて刺激を与えながら成長を促します。とくに「自分のことは自分でできる」ような声掛けや環境構成が大切です。

5歳児の活動例

  • サッカーやなわとび、リレーなどの体を使った遊び
  • お友達との協同製作
  • さまざまな廃材を使用した創作活動
  • クイズやなぞなぞなどの知育遊び

4 まとめ

今回は、保育所保育指針における5領域について解説しました。5領域は、子どもの発達段階に合わせて伸ばしほしい力を「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」に分類したものです。

保育士は、この5領域を保育計画や指導案の作成に役立てるとよいでしょう。しかし、毎日の活動に5領域すべてを盛り込むのは大変です。大切なのは、取り入れた活動にどのような目的があって、どんなことを学んでほしいのか明確にすることです。

保育の活動内容に悩んだときは、保育の5領域を振り返ってみてはいかがでしょうか。

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